いいことあった

久しぶりのスパ銭

6月も下旬に入り、私の周りでもワクチン接種を受ける人がぼちぼち出始めた。関西の感染者数も下がり、5月は毎日3桁を記録していた兵庫県の感染者も、ずっと100人を大きく下回っている。

「このまま収束してくれ」という、期待と祈りが混ざったような雰囲気が漂う中、6月21日をもって緊急事態宣言が解除された。

サウナに定期的に通い始め、つまり自分のことを「サウナー」と意識し始めたのが2年前の春のこと。以来、週1回は通っていたサウナであるが、5月から自主的におあずけ状態にしていた。

感染の第2波以降、さまざまな場所から多くの人が集まるスーパー銭湯はやめて、地元の人しか行かない街の銭湯に通い始めた。それはそれで新たな発見もあり、良い経験であったのだが、ここまで感染者が増えるとそれも不必要なことをしていると思い始めたのだ。

自分の良心と戦った結果、私はサウナの無い生活を選択したのだ。「サウナー」の名は一時おあずけである。

書きながら思い出した。そういえば去年の3月、最初の緊急事態宣言の時も私はスーパー銭湯に行くことをやめたのだった。そして、その代わり、汗をかく目的でランニングをし始めたのだった。

今回は走らなかった。だから先日久しぶりにサウナに行き、体重計の数字を見て我が目を疑うことになった。

緊急事態宣言が解除され、久しぶりに訪問したのは、神戸市垂水区にある「太平の湯」改め「SPA専♨たいへいのゆ」である。

ここは駅から少し遠いのが難点であるが(約1キロ)、施設はきれいで何より露天から海や明石大橋が眺められ、ととのいやすいのだ。それに、相撲開催期間中は確実にサ室のTVは相撲を流しているので、私の信頼度の高いスーパー銭湯なのだ。

駅から送迎バスもあるが、私は運動を兼ねて歩く。緊急事態宣言明けの週末、明らかに車や人の数が多い。銭湯に隣接するアウトレットモールへの道も渋滞している。

駅から15分で施設に到着。下足箱の数が街の銭湯とは一桁違う。久しぶりのスーパー銭湯に戻ってきたことを実感する。今やニューノーマルとなった自動測定器による検温を終え、2階の浴室へと向かう。

思っていたほど人は溢れていない。私は頭と体を洗い、軽く湯船につかった後、久しぶりの広いサ室へと向かう。直前、水風呂から柄杓で水を汲み足首から下を冷やす。

異変に気付く。いつもと感触が違う。明らかに水が冷たい!

冷たさを通じて

どうしたのだろうと思いながらサ室のドアを手にすると、そこにはラミネートされた案内板が。

「サウナフェア 土日限定 水風呂シングル設定」

ついに、ここまでサウナブームが到来したのだ。

神戸市中心部にある「神戸サウナ」は、私が住む兵庫県南部で一番有名なサウナである。ここは、全国にも知られたサウナで、充実した施設と行き届いたサービスで1日楽しめる、関西のサウナーにとってUSJのような場所である。

その神戸サウナの水風呂の設定温度は11.7度。周囲のサウナでは一番低い。私は神戸サウナの水風呂で冷やされ、脇にある木製の椅子に身を横たえる自分の姿を思い出した。気持ちよくてよだれが出てくる。

さて、今から入ろうとしてるのは、その神戸サウナの温度を下回るシングル水風呂である。サ室に入る前から期待が高まる。

いつもよりも長めに汗をかく。早く部屋を出たい気持と、もう少し我慢したい気持がせめぎ合う。サウナとは内なる自分との対話を行う場。折り合いがつけば部屋を出る。

この施設の良い所はサ室と水風呂の間にかけ湯があり、その3つが近接しているところ。サ室を出て水風呂の水で頭だけを冷やす、温かいかけ湯で体の汗を流し待望の水風呂に身を浸す。

「キターッ」

赤く熱された炭に水がかけられ、「チュン」という音と共に水蒸気を上げる。私は人間なので「チュン」の代わりに「うぉぉぉー」と母音のみの音を出す。

冷たくて気持ちがいい。水温計を見ると針は12度を示している。チラーの設定はシングルでも外気や人体の熱の影響でここまで上昇するのだろう。しかし、ここの普段の水温は16~18度なので、十分に違いが分かるレベルだ。

若いお兄さんたちが「うぉぉぉー」ではなく「ギャーッ!」と叫んで、一瞬で水風呂から飛び出していく。

「君たちもいつかはわかる日が来るよ」

水に浸かりながら優しい気持ちで彼らを眺めるが、そういう私も1分以上経過すると冷たさが身に沁みてくる。体の末端に痛みを感じた時点で外に出る。

タオルで体を拭きながら露天スペースに向かっていると、自分の体が清められているような感覚になる。滝行、寒稽古、寒中水泳、これらと「サ道」は求めているものは似ているのではないかという気持ちになる。

浮かんでくる言葉

体を拭いて露天スペースへ向かう。ここは昨年末の改装で寝椅子が設置された。本当はそこに身を横たえたいが、すべての寝椅子に先客がいる。みんな目を閉じて幸せそうな趣である。これもシングル設定のおかげか。

ととのいイスが2脚空いていたので、見晴らしの良い方に座る。立ち上がらないと海を見ることはできないが、それでも空と明石大橋の一部は見える。

流れゆく雲をぼんやりと眺めていると、目頭が熱くなってくる。どうしてだろう。どうして体を熱して、冷やし、こうして風に吹かれながら空を見ているだけで涙が出てくるのだろう。

サウナーになるまでは味わったことのなかった感覚。私が空で空が私。どちらの境界もなく私と空が一つになったような気持。私はこの感覚が味わいたくてサウナにやってくる。

シングル水風呂のせいか今日は特に気分がよい。頭の中にいろいろな言葉が浮かんでくる。

シングルプレイヤー

ゴルフの上級者をパックった言葉が浮かんできた。サウナ界ではシングルの水風呂を十分に楽しめるサウナーのこと。サウナブームなのですでに使っている人もいるかもしれない。シングルサウナーシングルファーザーシングルマザーでもいいかもしれない。

管トレ

これだけ冷たい水に入ると血管の収縮も大きいであろう。私が恐れていることは、加齢と共に血管が弱り、サウナでの拡張・収縮に耐えられなくなること。

そこで、血管年齢を若く保つための血管トレーニングが必要になってくると思う。どうやって?詳しいことはよく分からないが、タバコが悪いということは聞いていた。私は今は喫煙者ではないが、その他血管に良いことを探してみたい。

中年の間で「筋トレ」と並んで「管トレ」を流行らせたいと思った。

サメロ

サウナメロディーの略である。水風呂に浸かりながら、または外気浴をしながらよく鼻歌を歌っている。心と体がリラックスして気持ちよいから、思わず口ずさんでしまうのだ。

たいていは即興で思いついたメロディーである。そして、歌いながら思う、

「これは素晴らしいメロディーだ」。

気持ちがいいので、かなり盛り気味の評価なのはわかる。しかし、悲しいことにこの素晴らしいメロディーは、灼熱のサ室に再び入ると忘れていまう。

パッと浮かんでパッと消えていく陽炎のように儚いサウナメロディー=サメロ。これを記録する手段はないであろうか。そんなことを考えている。

予想外のご褒美のあった久しぶりのスーパー銭湯だった。大相撲7月場所がもうすぐ始まる。サ室の相撲とシングル水風呂の組み合わせが、今から楽しみで仕方がない。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。