ギターケースと共に
電車に乗る時私はいつも何か”有意義”なことをする。読書をしたり、語学のリスニングを行ったり。そうしないと時間を無駄にしているような気持ちになる。私の命=この世にいる時間、そう考えた時何もしないことは自分の身を切られるような感覚になるのだ。
私はそのような偏った考え方に支配されて生きてきた。”有意義なこと”に取り憑かれるあまり電車の中でスマホ一ついじることに罪悪感を感じる、そんな病的な心を持って生きている。それは年と共に少しずつ薄まってきているとはいえ、私が車内していることは変わらない。
そんな私であるが、この日は本も持たずイヤホンも外したまま電車に揺られていた。私の隣には黒いギターケースがある。前回このギターケースを家の外に出したのはいつなのか思い出せない。それほど昔のことだ。一つ言えることは、今回が私との最後の外出になるということ。
立てかけたケースの上の面が汚れている。私は鞄からティッシュを取り出して拭き取った。ティッシュが埃で茶色くなった。
「すまない。あなたの力を引き出せなかった」
私は思った。
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