令和六年三月場所

国技館の写真

14日目の幕内後半の取り組みを、私は馴染みの立ち飲みで他の常連と一緒にテレビ観戦していました。酒を飲みながら、気合の入った力士たちの勝負を見ることができ、心の底から喜びを感じた時間でした。

惜しくも髷を掴む反則で負けましたが、宇良の素晴らしい身体能力を見ることができました。琴の若が豊昇龍を寄り倒しにして優勝争いから引きづり落としました。

しかし、この日の私たちの話題の中心は「国技館に飾られる優勝力士の写真」でした。今まで大銀杏を結っていない優勝力士の写真があるのかどうかということでした。千秋楽を前に幕内優勝の可能性があるのは、まだ大銀杏の結えない尊富士と大の里になっていたからです。

この日朝乃山に敗れて右足首を痛めた尊富士は、痛みの中千秋楽で見事に豪ノ山に勝利して感動の優勝を飾りました。110年ぶりの新入幕優勝ということで、おそらく普段相撲に興味の無い人も関心をもってニュースを見たと思います。

私たちの間では、尊富士と大の里、どちらが優勝しても髪が伸びるのを待ち大銀杏を結って写真をとる、という予想ですがそれがどうなるのか披露される日が楽しみです。若くて実力のある力士たちの登場にますます大相撲を見る楽しみが増えます。

勇気づけられる

若手が登場して活躍する一方でベテランでも頑張っている力士たちがいます。その中でも私は玉鷲関を応援しています。幕内現役最年長でありながら頭からぶつかっていく力強い相撲を見せてくれます。

「鉄人」と呼ばれる通り連続出場記録を続けており、どんな時であっても「とりあえず玉鷲の勝負は見られる」という安心感を与えてくれます。

そんな玉鷲ですが今場所で鳥肌の立った一番が14日目の北の若戦でした。私はこの取り組みをラジオで聞いていました。馴染みの立ち飲みに歩いて行く途中だったからです。ラジオの向こうからものすごい唸り声が聞こえてきました。何度も何度も聞こえてきました。

後にこの取り組みを動画で見ると、玉鷲は中へ入ってこようとする北の若に対して何度も何度もぶつかって押し返そうとしていました。約20秒の間、若い北の若以上の激しい動きを続け、最後は北の若を東側へ押し出し、自身は力尽きて赤房下へと転がっていきました。すぐに立ち上がった北の若とは対照的に、玉鷲はしばらくその場で息を切らしていました。

39歳にして、このように見るものを感動させる力のある相撲が取れるのです。「体力や気力の限界と言えるのは横綱と大関だけ。ぼくたちは気持ちを入れづづけてやるしかない」玉鷲関の言葉がラジオで紹介されていました。中年オヤジの私はこういう謙虚で力強い言葉に勇気づけられます。

無制限の魅力

体重の制限がない大相撲で最も盛り上がる勝負の一つは、小柄な力士の活躍にあります。私が若い頃は相撲に全く興味がありませんできたが舞の海関の勝負はよくテレビで見ました。

今場所で気になった小柄な力士は十両の時疾風(ときはやて)関です。十両筆頭で迎えた今場所は、勝ち越しを決めれば幕内という重要な場所でした。そんな彼の圧巻の一番は6勝6敗で迎えた13日目です。残り3番で勝ち越しのプレッシャーがかかる中相手は3日目から9連勝中の大翔鵬です。

仕切り線で向かい合う両力士を見て対格差は一目瞭然です。両差しの時疾風にたいして大翔鵬が何度も小手投げを打とうとします。東の土俵際、時疾風の左足が浮かび上がります。「もう投げられる」と思った瞬間に時疾風のすくい投げが決まり場内が大盛り上がりになります。

こういう一番こそ、皆が待ち望んでいるものであり、体重無制限の相撲の魅力であると思います。

小柄の力士で言えば本格的に相撲を見始めてからは炎鵬関をずっと応援していたのですが、彼は頸椎のケガにより最近は相撲を取れる状態にありません。しかし、炎鵬関はどんなに番付を落としても体が治れば相撲を取ると言っているそうです。炎鵬、翠富士、時疾風の3人のいる幕内が見れる日が来ることを願っています。

3年11年の後

千秋楽の十両戦終了後、久しぶりに私の好きな力士の取り組みを見ることができました。春日野部屋の栃丸関です。彼は2年前の大阪場所を幕下西筆頭で迎え4勝3敗で勝ち越し、入門から11年で新十両に昇進することができました。

私はそんな苦労人である栃丸を見て感動し、自分の中に「石の上にも三年栃丸十一年」の言葉が浮かび、それを意識的に使っていました。目が細く愛嬌のある表情も可愛らしく、私は自分で似顔絵を描いてこの言葉を入れたTシャツを作ろうかと計画していたのですが、それは叶いませんでした。わずか3場所で十両から陥落してしまったからです。

十両陥落後も幕下中盤を行ったり来たりしていた栃丸ですが、去年の8月の半月板手術後休場が続き、今場所序二段からの復帰でした。気になる力士なので勝敗を確認していたのですが、今場所は調子が良く全勝で千秋楽の優勝決定戦を迎えることになったのです。

妻の贔屓である天琉氏の呼び出しを受けて同じく全勝の龍王と共に土俵に上がります。テレビで見る久しぶりの栃丸の姿に私も喜びが湧き上がってきます。

立ち会い、そしてあの高速の突っ張り、いなし、再び突っ張り、もう一度引いたところで龍王が前に倒れ込みました。栃丸の序二段優勝です。

年齢的にもそろそろ引退を意識し始めてもおかしくない頃です。11年かけて十両に上がり、3場所で陥落してその後手術のため休場。番付を大きく下げて臨んだ今場所で全勝優勝。様々な思いが脳裏を巡っていると思われます。

これをきっかけにもう一度夢を見せてただけたらと願って病みません。「石の上にも3年栃丸11年、そこからの2年」今年の内にそんな言葉を使ってみたいです。

名古屋の楽しみ

今場所の楽しみの一つは兵庫県出身の北播磨関の十両復帰でした。見た目は若々しい北播磨関ですが実は37歳で、今回で9度目の十両復帰であり地元の新聞やニュースで度々取り上げられました。

大相撲の世界に大きな切れ目を一つ入れるのなら、それは十両と幕下の間に入ります。十両になって初めて関取と呼ばれ、給料がもらえるのです。力士のシンボルである大銀杏もこの位以上で許され、その他土俵入り、絹の締め込み、糊付けされた下がり、付き人、明け荷等々この間には天と地ほどの待遇の差があります。

そのような此岸と彼岸の間を行ったり来たりしている北播磨は、その待遇の違いを誰よりも頻繁に感じている力士ではないでしょうか。なまじ天国の状態を知っているからこそ、地獄の辛さが身にしみるというやつです。

他の兵庫県民と同様に私も強い声援を送っていたのですが、北播磨は今場所4勝11敗と大きく負け越してしまいました。東十両14枚目なので幕下陥落は確実になります。

応援していた私にとって残念なことですが物事には必ず二つの側面があります。北播磨の幕下陥落は新たな楽しみを与えてくれます。それは、新記録となる10度目の十両復帰です。五月場所でよい成績を残せば7月での復帰も見えてきます。

私は今年も名古屋場所を観戦する予定であるため、そこで北播磨の十両土俵入りが見られることを楽しみに五月場所での取り組みを応援したいと思います。

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投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。