ブルーベルレコードに通ううちに
Judas Priestとブルーベルレコード、2本の記事を書いているうちに、もう一軒面白い店を思い出しました。
神戸に行くたびブルーベルレコードに立ち寄っていた10数年前、店内に貼られたA4の地味な広告が目につきました。体裁は地味でも、そこに書かれた文言が私の心をつかみました。
密かに一人で信念を貫いている人
”ヘヴィメタ”ではなくHeavy Metalと呼ぶ人
思わず、「これは私に対して書かれたメッセージなのか」と解釈してしまうくらい、当時の私にはピンポイントな言葉でした。
「密かに一人で信念を貫いている人」
そうだった。
大学まではよかった。周りに同じ世代がたくさんいて、話ができる友達もいたから。職場に同じ世代は10人以下。部署が変わっても同じような構成。ミスチルやGlayの話はできても、CarcassやSlayerの話は中々できない。というかCDのジャケットすら見せられない。
本来なら、私が流行りの音楽を聴いて大多数の同世代にすり寄っていけばよかったのかもしれない。そうすれば、カラオケでみんなが盛り上がる持ち曲もできたのかもしれません。しかし、私はどうしても流行りの曲を聴くことができなかった。それらを聴く時間があるなら、1枚でも多くのメタルのCDを聴きたかったから。
あの当時の私は「密かに信念を貫いていた」のかもしれない。今から思えば、その融通の利かなさがモヤモヤにつながっているのかもしれませんが…
「ヘヴィメタ」という言葉
飲み会やコンパで、同世代の男女と知り合いになる。「何か好きな音楽ある?」と聞いた時、大抵の人は「いろいろ聞くよ」とか「何でも聞くよ」と答えます。
微かな希望を胸に「じゃあ、ヘヴィーメタル聴く?」と尋ねると一瞬「…?」となった後、「勘弁してよ」という表情で、例の決まったフレーズが出ます。
「あ~、ヘヴィメタはちょっと」
25年ほど前に頻繁に繰り返されたやり取りです。
幅広く音楽を聴いているつもりの人でも、Heavy Metal=ヘヴィメタは彼らの範疇に無い音楽です。音楽というより、派手なルックスをした変な人が、音楽というより、叫んだり、炎を吹いたりしている。そんなイメージです。私がいくら「メロディアスでクラッシックに近い音楽だよ」と言っても、例の「勘弁してよ」という表情で信じてくれません。
私は自分の中で”ヘヴィメタ”という言葉を封印し、その言葉の使用に対して「Heavy Metalのことね」と言い直す嫌な男になりました。今から思えば、「どっちでもええやん。カテゴリーは後付けされるもんなんやし」と言えますが、当時の私にはそんな余裕はありませんでした。
ここでも怪しい階段が
前置きが長くなりましたが、ブルーベルで見たその広告に感動し、私は早速その店を目指しました。店名は「スターゲイザー」、場所は三宮の北側、肝心な売り物は「メタルグッズ」です。クラッシックグッズ、ポップグッズ、演歌グッズ、ラップグッズ、などの店の存在は聞いたことありませんが、「メタルグッズ」は極たまにあるんです。変わった音楽ですね。
広告で確認した通り、三ノ宮駅西口から北へすぐ、マクドを過ぎた銀行の隣に小さな建物が。2階の窓に看板が見えます。こんな町の中心に、こんなレアな業種の店があったのか。今まで何度も前の道は通っていましたが、私の重金属探知機はこれほどコアな店にも反応していませんでした。
入り口のドアを開け、中に進みます。2階に上がる階段の手前で思わず吹き出しました。そこには、手書きの張り紙が…
”ちょっと待った!この上にお洒落な服を売っている店はありません!”
来るものを拒む、怪しさ大爆発の階段です。メタルマニアの境遇を自虐にした見事な一言。ブルーベルで見たあの広告といい、このお店の方は言葉遣いのセンスがある方だと感じました。
お洒落な服を求めない私は階段を上がり、店内へ入ります。
店内の色は黒です。商品がほとんど黒を基本とする世界、デパートの礼服売り場からシャツと白ネクタイを取り去ったイメージです。要するに、黒一色。
その中心となるのがバンドのロゴやキャラクターが入ったTシャツです。Iron Maidenならエディー、Helloweenなら怒ったジャックオーランタンですね。階段の注意書きの通り、決してお洒落とは言い難いのですが、メタル好きにとってはそんな次元の話ではなく「いざという時のために何枚かは持っておくべきもの」という位置づけです。要は礼服のようなものだと思います。
このスターゲイザーには、ブルベルレコードほどではありませんでしたが、神戸に出かけることがあれば、思い出したように行っていました。お店の方も、お客さんも「いかにも」という雰囲気の方が多かったように記憶しています。ここでも、好きなことに熱中して楽しそうに過ごしている人に出会いました。
「あの広告を見て来ました。もしよろしかったら、コピーをいただけませんか?」私がそう切り出すと、店主は快く、2枚の広告を渡してくれました。その広告は、その後しばらく私の仕事場の机のデスクマットの下で自己主張していました。もう1枚は今でも保存しています。
ブルーベルレコードと同様に結婚・子育てをきっかけにして、この店にも足は遠のき、いつの間にか店自体がなくなっていました。
購入したメタルTシャツのうち、モーターヘッドのものは私の大変お気に入りで、10年以上たった今でも大切に着続けています。
モヤモヤ ⇒ ⇒ ⇒ 幸せ?
”かつて通っていた店の記憶を書き留めると、その時の幸せな気持ちも保存できるかも”