ハードロック弁当

白と茶色

3年前にジュンク堂書店の料理本コーナーで「ハードコア弁当」なる写真集を目にしました。「ホイップ坊や」という芸人が毎日作ってインスタに更新していた弁当を集めたものです。

その「ハードコア弁当」は今までの弁当の概念を打ち破るもので、いいように言えば”シンプル”、普通に言えば”手抜きでおかずが極端に少ない”という風になります。

弁当の構成は、白いタッパーに敷き詰められた白米の中心に、おかずが一品のせられていて、おかずとは「唐揚げ1個」「アジフライ1個」「ベーコン1枚」など、それぞれが1つずつ入っているわけではなく、1食の弁当にどれかが1つ入っています。日の丸弁当の梅干しが、唐揚げ1個に置き換わったという感じです。

美味しそうなお弁当は白・緑・赤・黄色・茶色がバランスよく配置されていますが、このハードコア弁当は基本「白と茶色」の世界です。それは多層的な曲構成や旋律を重視しない「ハードコア」という音楽のジャンルを連想させるものです。

昼食は外で食べたり出来合いの弁当をよく買っていた私ですが、この冗談ともいえる弁当を知り、見よう見まねで弁当を作り始めました。作ると言っても、弁当箱にご飯を敷き詰めて、その上に冷蔵庫の中のおかずをのせるだけです。

ただ私はホイップ坊やほどハードコア=”筋金入り”な弁当を食べる気にはなりません。ご飯とハム一枚を食べ、午後からの仕事に気持ちよく取り組めるとは思えないのです。

そんなわけで私は妥協を行いました。白米の上のおかずをのせるという形は同じなのですが、私はその数を2~3品に増やしました。つまり、メロディーの種類を増やしたのです。

私はこの弁当を当初は「メロコア弁当」と名付けましたが、”メロディックハードコア”も私の得意とする音楽ジャンルではないので、最終的には30年来聞き続けている音楽から「ハードロック弁当」と名付けました。

この「ハードロック弁当」でのお昼ご飯、おかずの少なさのため、すぐにもとの外食や出来合いの弁当にもどるのかなと思っていましたが、今まで3年以上続いていて非常に満足しています。

この弁当を持つことで予想外の収穫があり、今のところこのライフスタイルを変える気にはなりません。

3分以内で作る弁当

鶏の天ぷら+ちくわ

今は弁当箱を変えましたが、少し前までは2段式の弁当箱を使ていました。普通は片方にご飯を、もう片方におかずを詰める弁当箱ですが、ハードロック弁当では、どちらもご飯の上におかず、という使い方をします。

朝、数分の内に自分で作らなくてはならないので、上の写真のようになります。この日は、前日の夕食の残りである「とり天」と冷蔵庫から出した「カネテツのちくわ」です。

ウインナー+かまぼこ+佃煮

おかずに手を加えることもあります。この日の弁当には2つの手が加えられています。

1.フライパンをコンロにかけてウィンナーを温めました。
2.かまぼこを包丁で切りました。

右上の佃煮はイカナゴという魚です。兵庫県の瀬戸内側では、3月上旬の解禁がニュースになるぐらい有名で皆に好かれている魚です。主に佃煮にされ、地元では「イカナゴのくぎ煮」と呼ばれています。

非常に美味な魚で、私も春になると自分でくぎ煮を炊きます。そしてこの時期の弁当の不動のレギュラーになります。

ハム+おかか+明太子+笹かまぼこ

時にはこんなにおかずが増えることもあります。この日のおかずの内、右側の2品は冷蔵庫から出して入れただけですが、左側のハムは2つに切って中にマヨネーズを挟みました。その下は、鰹節と刻んだ海苔を敷いて醤油を垂らしました。

ここまでおかずが増えると、ハードコアから派生したハードロック弁当とは言えないかもしれません。曲で言うとABメロディーの後サビが続き、またAメロに戻るのかと思っているとリズムチェンジで別の展開に入ったという感じでしょうか。少し複雑です。

だいたいこんな感じで、私は毎日、白米の上に2~3品のおかずをのせた弁当を持って職場に向かっています。不思議なようですが、客観的に見れば”貧相”ともいえるこの弁当から、私は街で買ったおかずが豊富な弁当以上の満足感を得られています。

バランスを考える

ハードロック弁当を食べる時、嫌が上でも考えさせられることが「ご飯とおかずのバランス」です。何しろ、普通の弁当と比較すると、白米の量に対しておかずが少ないのです。

高度経済成長前の時代を知る人には「何を贅沢なことを」としかられそうで、実際人類の歴史を考えるとその通りなのですが、豊かな時代しか知らない私にとって弁当箱一面の白米に対しておかず2個では、バランスが悪いです。

しかし「バランスが悪い」と思うからこそ、バランスを取ろうと工夫するのもだです。私はそのことに気が付きました。

「どうやったら少ないおかずの中で最大限に昼食を楽しむことができるのか」、この発想は外食や出来合いの弁当を買っていたころには持っていなかったものでした。

私は数少ないおかずを食べるタイミングを意識しながら食事を進めました。そうするとあることに気が付きました。

それは、おかずのおいしさもそうなのですが、ご飯そのものに今まで感じなかったおいしさがあると認識させられたことです。おかずの塩気と共にご飯を咀嚼していると、いい塩梅となったお米のうま味が口の中に広がってきます。

このお米は、私の両親ができるだけ農薬を減らして栽培し、私たち家族に送ってくれるものです。こうやって自分で作った弁当を食べていると、お米のおいしさと共に両親への感謝の気持ちが湧き上がってきます。

ハードロック弁当は、白米とおかず以外の部分でもバランスについて考えさせてくれます。それは栄養のバランスです。

ハードロック弁当は明らかに栄養バランスがよくありません。炭水化物と少しのたんぱく質で構成されており、野菜果物や海藻類が乏しいです。しかしそのことが逆に1日・1週間単位で食事のバランスを考えさせてくれるのです。

私は夕食に意識して自分に足りない栄養素を摂取するようになりました。妻から「今日は何が食べたい」と聞かれたとき「根菜類と魚」と答えることなどそれまでは皆無でしたが、今では普通です。

朝、果物を口にしてから家を出るようになりました。職場にやってくるヤクルトのおばちゃんから「ヤクルト400」を買って飲むようになりました。弁当の栄養バランが悪いから、せめてヨーグルトだけでも足しておこうという思いからでした。

しかし、そのヨーグルトがいつの間にかヤクルト400になり、今は腸内環境の改善を意図して毎日飲んでいます。そのおかげがここ2年ほど体調は良く、風邪もひいていません。

このヤクルトですが、思わぬ副産物もありました。ヤクルト400の価格は1本86円です。小銭を用意しておくか、100円出して毎日小銭をもらうか。私は前者を選択し。コインケースの50円以下のコインを職場の引き出しに置くようになりました。

500円と100円硬貨は、家に帰れば「プレゼント用貯金」のための貯金箱に投入します。私のコインケースは一日の内最後には空になります。以前のように小銭でパンパンになることはなくなりました。小銭入れがスッキリすると、なんだか心もととのった気がします。

このように、私はハードロック弁当から毎日満足感を得られており、この弁当をこれからも作り続けようと思っています。一見貧しそうな弁当から満足感を得るということは、小さなことにでも幸せを感じることができる心につながることだと思います。

多くのことは物の見方によってその意味を変えてくるし、人間の幸せとは物や出来事そのものというより、どのような見方を持つことができるのかということに深くつながっていると感じます。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。