バイクと人生

丹波と古民家

私は職業柄、何か行事があるといろいろなことを配慮し、計画を立て、時には根回しをして、その運営が上手くいくように心配りを行います。簡単にいうと、場を仕切って進めていくタイプの人間です。

そういう性格が適していたのか、子どものころからクラスの委員長や部活動のキャプテンを数多く経験してきました。私としては受け身で指示を待っているよりも、自分で考えて人を動かすことがいいと思ってきました。

それはそれで自分に合っていると思うのですが、時に何も考えずに誰か他人の描いた絵に沿って金魚のフンのようにくっついていくこともしてみたいと思いもあります。今、私の中のそのような思いに応えてくれるのが、馴染みの立ち飲みの常連で作ったツーリングクラブです。

そこにはものすご気が利いてお世話好きのWさんという方がいます。Wさんは旅行好きで経験値も豊富なため、頻繁にいい宿を見つけてはツーリングの提案をしてくれます。行先と宿だけ決めるのではなく、その周辺の見どころや麺類を提供する店の情報を調べてきます。(彼は無類の麺好きなのです)

そんなわけで、私たちのツーリングは立ち飲みやラインでいろいろ意見はするものの、結果的には当日集合した時点から先はずっとWさんに身をゆだねることになります。今まで「仕切り」の立場が多かった私は、そのゆるい感覚がとても気持ちよく感じられます。

「暑くなる前に一度行っておきましょうか」ということで五月下旬の二日間、私たちは4人でツーリングに出かけました。宿をとったのはもちろんWさんで、今回も篠山市で古民家を一軒借りての宿泊です。Wさんは丹波地方と古民家が大好きなので、今回も神戸から北へ向かうルートです。

日帰りツーリングを含めて私たちは何度も通ったルートのため「また篠山か!」と思ったのですが、私は全てをゆだねている金魚のフンの身であります。同じコースであろうとなかろうと、ふらふらとついていきます。

行ったり来たり

今回一泊二日のツーリングは、神戸を発ち篠山に宿泊し再び神戸へと帰ってくる日程であります。しかし、私たちがたどったルートはかなり異常で、今考えるとその異常さは私たちがどうしてバイクに乗るのかという根源的な問いに迫るものであります。

私たちがまず目指したのは京都府南丹市でした。その中心に園部という街があり、そこにラーメンの美味しい海鮮料理の店があります。去年のツーリングでも訪問した店でしたが、その時欠席したFさんのために再訪することにしたのです。

私たちは神戸市北区の集合場所から走り慣れた道を篠山へと向かいます。今日の宿泊場所のある集落を通り過ぎ、天引峠を越えて京都府に入ります。しばらく走ると園部の街に到着します。

実はこのルートは戦前に鉄道建設計画があったルートであり、結局篠山から福住までが篠山線として建設されたものの、そこから先は工事に着手しないまま篠山線も私が生まれる前に廃止されてしまいました。篠山から園部までの間、私は廃線跡を探してキョロキョロ、未完の路線を想像しながらデレデレでした。

美味しい魚介ラーメンを食べ終わったのは12時前です。ここから篠山の宿に到着するまでの4時間が自由に走る時間になります。私たちは二つのルートを検討しました。一つ目は南丹市から東へ向かい美山を抜けて福井県小浜に抜けるルート、もう一つは国道27号線を北西へ進み、綾部の手前で山道に入り舞鶴へと抜けるルート。

しばらく考えて、私たちは後者のルートを選びました。小浜を経由して戻ってくるには時間が足りないと思ったからです。

4台のバイクは、気持ち良い初夏の日差しの中ほとんど止まることなく舞鶴へと山道を進んでいきました。ダラダラと標高を稼ぎ、舞鶴市街の手前で一気に降って行きます。この街が重要な港湾都市になった理由がわかるような地形を体感します。

私たちは途中でバーベキュー用の食料と酒を仕込み、篠山郊外の古民家へ到着しました。とても素敵な建物でバーバキューもお酒も美味しかったのですが、そのことはここには記しません。今回は私たちの通ったルートについての記述がメインのため、二日目の道のりへと進みます。

翌日の朝、私たちは滞在可能時間ギリギリまで古民家と伝統ある街並みを堪能しバイクに跨りました。近くのコンビニで疲れた胃腸にソルマックを流し込みながら作戦会議です。

結果、私たちは昨日行くことのできなかった美山経由の小浜を目指すことにしました。途中まで昨日と同じルートを走り、京丹波町から美山へと入り山に囲まれた里山の中をひたすら進んでいきます。この地域に数多く残る茅葺き屋根をトタンで覆った大きな屋根の民家がこれでもかというぐらい現れます。

県境の堀越峠を長いトンネルで抜けて、下カーブが続く上級者には楽しい、私にとってはヒヤヒヤする道を走ります。しばらく走ると小浜市内に流れ込む南川が形成した平地が現れ、そのまま川に沿って小浜の街まで進みます。

「新幹線、本当にできるのかな」と思いながら貧弱な線路規格の小浜線の踏切を渡ります。私たちは今日の目的地に到着しました。神戸から約150キロの地点です。

さてここから何をするのでしょうか。そうです神戸へと帰るのです。国道27号線を舞鶴へ向かい、そこから前日に通った道を篠山へと向かい、そこからいつものルートで神戸市北区のラーメン店へ向かい、その場で解散しました。

なんのために走るのか

今回のツーリングで私は人生についていろいろと考えました。自分たちのこの二日間の行動は何なのか、それは人生みたいなものではないのか、そんな気分です。

この二日間を短い言葉で表すとこうなります。

「神戸からバイクで篠山に行き、そこに一泊して帰ってきた。」

確かに私たちは篠山に泊まってバーベキューをして酒を飲みました。しかし、その前に篠山より遥かに先である舞鶴までいきました。途中で行ったことは、昼に園部でラーメンを食べたことと、西舞鶴の道の駅で休憩したことです。

二日目も同じで、舞鶴よりさらに先の小浜を目指し、道の駅で休憩して舞鶴と篠山を通って神戸に帰ってきました。この日の昼食は胃もたれのため食べていません。

私たちが行なっていたことは、ひたすらバイクに乗って走ることでした。走りながら私はさまざまなことを考えます。道路標識が現れるとこう思います。「あと〜キロで目的地だ」。

キロ数が減ることは目的地が近づくことなので嬉しくなりまう。その目的地に着くと、何もせずに次の目的地へと向かいます。そして、最終的には目的地は自分が出発した場所へと変わります。

このことが教えてくれることがあります。それは、バイクに乗ってどこかに行くということは、乗っているその瞬間を楽しむためにあるということです。それは遊園地でジェットコースターなどの遊具に乗っている感覚と似ています。遊具に目的地はありません。ただそこにいることを楽しむだけです。

私たちは日々目標を持って暮らしています。私であれば「3カ国語が話せるようになりたい」とか「サイドFIREして日本全国のサウナに行きたい」などです。

私が仕事を行っている教育現場においても同様です。私はそうは思いませんが教師・生と共に高校の一番の目標は「進路を実現させること」だと思っています。

私たち学校側の人間も共犯で、「将来の夢は何か」「どこへ進みたいのか」「成績を上げないと将来困るぞ」と生徒たちを追い立てます。

そんな風潮もあってか高校生の多くは就職のことを考えながら大学を選びます。「関関同立だと就職に有利だから」とか「そんな学部を出ても就職がない」など保護者も首を突っ込んできます。

働き始めたらどうなのでしょう。結婚、マイホーム、子育てと教育、老後のためと、特にお金に関しては目標を設定してそれに向かって行動する場面が多くあります。

それはそれで大切なことで、私も似たようなことを今までしてきました。しかし、その目標のために「楽しくない今」を重ね続けるのなら本末転倒になるでしょう。

私は今回バイクに乗っていてそのことを強く考えさせられました。目的地はあるもののそこへ行けば何かが劇的に変化するというものではありません。ツーリングでは、バイクにまたがっているその一瞬一瞬が大切なのです。

視界に入る田畑や山の緑、体に受ける風や日差しの熱、タイヤやエンジンから伝わる音と振動、カーブでの遠心力や下り坂での重力、当たり前のように思えるそれら一つ一つを感じて味わい、そのような場面を経験できる自分の存在に感謝するのです。

それは人生に置き換えると、一日一日、一瞬一瞬、つまり「今」の過ごし方にあたります。「先のことを考えすぎて今を犠牲にしていないか」と自問します。

「何のためにバイクで走るのかと」いう問いは、人生においては「何のために生きるのか」に置き換えることができます。バイクの方は結論が出ています。人生も、私は心の中では分かっています。あとはそれをできるだけ毎日の一瞬一瞬に反映させていくことです。

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投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。