ブログを書いていて思い出しました
少し前の記事で、メタルCDと私の性格の関係を書きながら、私がよく通っていたCD屋さんのことを思い出しました。
今から15年ぐらい前の話です。メタル雑誌Burrn!に小さくて地味な広告を発見しました。店名とCDの紹介、写真やロゴはなく、すべて文字で埋められた地味な広告をその時まで意識することはありませんでしたが、よく見るとそこには私の知らないバンド名ばかり。メタルバンドはかなり知っているつもりだった私の脳裏に「?」が浮かびました。「メタル雑誌に広告を出しているが、この店はどんなCDを売っているのだろう?」
しばらくして、メタル好きの大学時代の友人が遊びに来たので、神戸にあるその店を訪問してみました。三宮センター街から1本南側の筋、古い雑居ビルに黄色の背景に赤く「ブルーベルレコード」の文字が。狭くて薄暗い階段を上ると右側に雀荘が。さらに上に上がり、3階の踊り場に出ると右奥に人とすれ違えないほど狭い階段が見えます。「本当にこの先に店があるのか?」少し不安になりながら勇気を出して上がると、古い旅館の部屋にあるような安っぽいドアに手書きで「ブルーベルレコード」の文字が見えます。
私と友人は、店内に入り、始めて体験する世界に興奮しながらも、お互いにニヤニヤと笑いっぱなしでした。
未知の世界…メタルの学校
ブルーベルレコードは、今まで私が通っていたどのレコード屋さんとも異なりました。「潔さ」のあるお店でした。新譜を売る店ですが、あれこれ売らずメタル一本で勝負している店でした。そのメタルも、私がBurrn!の広告で感じたように、相当なマニアにしか知らないようなバンドのCDが溢れていました。
小さな雑居ビルの小さな1室、パッと見て12~3畳ほどの店内は、入り口を入って左側の棚に英米を中心としたメジャーどころのCDが。唯一の窓のある右側の棚にはレコード・DVD・日本のバンド。圧巻は正面と真ん中の島状の棚で、スペイン・ギリシャなどの南欧系、チリやアルゼンチンといった南米系、その他東・東南アジアのバンドのCDがこれでもか、というぐらい積まれています。
左右の棚がいわゆる「一般のメタル好き」のためのもので、その間は異次元の世界です。売られているバンドの半分以上は、見たことも無いような名前で、いったいどこの国のバンドなのかもわかりません。ジャケットと店主手書きの短いコメントを頼りにCDを選んでいきます。特にデスメタル系のジャケットは、グロテスクなものが多く、コメントも「すーんーごいの」など。おそらくどこかの国のインディーズものなのでしょう。ジャケットと店主のコメントを頼りに、想像力をいっぱいに膨らませながら未知の宝物を探していく、そこはメタルの学び場のような場所でした。
CDラックの国際化
初めて訪問して以来、私は神戸に行くたびにブルーベルレコードを訪問するようになりました。買いたいCDを求めて行くのではなく、私がメタルの何を求めているのかを探しに行くのです。いわば「自分金属探知機」のようなものです。
あの狭くて怪しい階段を上るたびにワクワクします。「今日はどんな世界を知ることができるのだろう?世界はどこまで広いのだろう?」と。
コメントに加えて、店主との会話も世界を知る手掛かりとなります。入口右手のレジカウンターに腰を掛け、いつもタバコを吸いながら音楽を聴いていた店主は、一見無口そうですが、聞かれた質問には豊富な知識ですぐに答えてくれますし、視聴もさせてくれます。
店に入り、ジャケットとコメントに目を通し、質問を考え、財布の中に気を配りながら、その日購入するCDを考えていきます。店内で流れている音楽も決定要素になりました。「今かかっているこれ、なんていうバンドですか?」。日本のAzrael、チリのSix Magic、スペインのTierra Santaといったバンドは、このようにして知ることができました。
ブルーベルレコードに通い始めて、南欧・南米を中心に、私のCDラックも随分国際化が進みました。
お金と時間と…情熱?
このレコード屋さんに行くためだけに神戸に頻繁に行く生活が5年ほど続きました。行けば必ずそこでインスピレーションを受けた何かを買いました。黄色いスタンプカードも頻繁にいっぱいになりました。
結婚後もしばらくそういう生活が続きましたが、子供の誕生し勤務場所が変わると、次第にブルーベルへの道のりが遠のいていきました。メタル好きでも、家で小さな子供にそれを聴かせるのは抵抗がありましたし、妻もあまりいい顔しません。車の中で聞けばいいのですが、普段2週間に一度ぐらいしか運転をしない生活です。何より、子供たちが小学生に上がるぐらいまでは、何かと父親も手がかかり、新しい勤務場所がめちゃくちゃ忙しくて心に余裕がなかったこともあり、音楽そのものを積極的には聴かなくなりました。
神戸に行き、三宮のあの路地で黄色い看板を見るたびに、「まだやっていた、そのうち行こうか」と思っていましたが、収入がすべて自由に使えた独身時代とは財布の中身も異なります。何にも考えずに万札を取り出していた私が「CD一枚2500円かあ、どうしよう…」と考えるようになりました。スタンプカードも有効期限内に埋まることがなくなりました。かつては何が聞きたいのかを探しに行っていた場所が「次ほしいアルバムがあったら行こうか」という場所になってしまいました。
2年ほど前のある日、いつもの路地の雑居ビルの入り口から黄色の看板が消えているのに気が付きました。急いで階段を駆け上がると、あの安っぽいドアの向こう怪しい空間はお洒落な店に変わっていました。
HPでもあればもっと情報をつかんでいたのかもしれませんが、パソコンすらなく、タバコを吸いながらひたすら音楽を聴いていたあの店主にそれを望むのは無理な相談です。僕がブルーベルレコードに最後に行ったのは2015年ぐらいだったと思います。注文していたカーカスのCDを取りにいった時でした。そういえばあの時、店内には音楽がかかっていなく、いつもと違う店に入ってしまったような心持がしたことを覚えています。
ネットを検索すると、わずかではありますがブルーベルレコードの情報があります。真偽のほどはわかりませんが、その中の一つに書かれた「店主は最初から25年の計画で店を開かれ、これから計画通り隠居生活に入る予定」という情報に少し心が軽くなりました。店の品ぞろえと同様にしっかりとした自己を持たれた方だと感じました。
途中から疎遠になりましたが、僕の世界を広げてくれたブルーベルレコード。そのブログを書いていて、またメタルを真剣に聴いてみようかなと思います。子育ても落ち着いてきたことですし。
日々モヤモヤに支配され、こうしてブログを書くことで心の整理をしようとしている私ですが、こうして20年前の思い出を書いていると、当時の気持ちを思い出します。「今日はどんな世界に出会えるのだろうか」期待に胸膨らませながら、あの狭くて薄暗い階段を登っていた時、私の心はワクワクがいっぱいで、モヤモヤの入ってくる余地はありませんでした。もうこの店はありませんが、私がアンテナを敏感にして周りを見回せば、また行くたびにワクワクさせてくれるような場所に出会えるかもしれません。ブルーベルレコードに感謝しながら、そんな場所を探していきたいです。
モヤモヤ ⇒ ⇒ ⇒ 幸せ?
”自分の世界を広げてくれるような、ワクワクする店に出会う。”