ブームは本物

妻からのプレゼント

誕生日、結婚記念日、父の日、母の日など、夫婦の間でプレゼントをやりとりする機会はいろいろとありますが、最近ではほとんどが食べ物ですましています。これは単に、お互いに物を所有することに対して興味がなくなっているためです。

特に私は近藤麻理恵さんの本を読んでからは、物を捨てることにも抵抗がなくなり、よりシンプルな生活を楽しめるようになってきました。だから、妻に「何か欲しいものある?」と聞かれても、「おいしいカツオが食べたい」と言う風に、胃の中に消えてなくなる食べ物を望みます。

そんな私ですが、少し前に欲しいものができ、そのことを妻と話しました。「じゃあ、それを私がプレゼントしてあげる」と妻は言いました。

しばらくして、その会話を忘れるころ、私宛にアマゾンが届きました。話をしていた例のプレゼントでした。

中身を取り出してみます。

サウナハット

今治タオルで作られたサウナハットでした。

ツートンカラーが素敵なシンプルなデザインのこのサウナハットを、私は一目見て気に入りました。こうなったらもう早くサウナに行きたくて仕方がありません。その週は、週末までがいつも以上に長く感じられました。

しかし、思いがけない事情でその週は、週末もサウナに行くことができませんでした。緊急事態宣言期間は別として、2週間もサウナに行かないことはここ数年間ありません。人生は思うようにいかないものですが、私は簿記を勉強しました。借方と貸方の値は一致します。行きたいと思う期間が長ければ、実現したときの喜びが増します。

そんなことで、先週末私はあるスーパー銭湯へいつも以上にワクワクしながら訪問しました。

3人も!

久しぶりのサウナへの期待+サウナハット初使用に、受付から更衣室までの足取りも軽くなります。服を脱ぎ、フェイスタオル、サウナマット、ペットボトルのお茶、そしてサウナハットを持って浴室に入ります。これだけ持ち物が増えたら、カゴを買ったほうがよさそうです。

体と頭を洗い、お湯に浸かった後軽く水通しをします。体の水分をフェイスタオルで拭きとり、いよいよサウナハット装着です。サウナ室入り口ドアのガラスに、サウナハットをかぶった私が映っています。

まんざらでもありません。少しかぶり方を深めに調整してドアを開けて中に入ります。

「みんな私のステキなサウナハットに注目してくれるかなあ」そんなスケベ心を持ちながら中に入ると、なんと 、中にも三角がいるじゃないですか。それも、一人、二人、三人。

私は今までこのスーパー銭湯でサウナハットをかぶった人をほとんど見たことがありませんでした。サウナ専門店には一見して”サウナー”だと分かる人が多数います。サウナハットをかぶったそのような人たちは、専門店ではよく見られますが、ここはスーパー銭湯です。しかもサウナ室は、サウナストーンのフィンランド式ではなく熱々のドライサウナです。

「やはりブームは本物だ」と私は感じました。

今までいなかったサウナハットをかぶった人たちが、このスーパー銭湯に、今私を含めて4人もいるのです。さらに、私のように”マイサウナマット”を持参するサウナー達も目立つようになってきました。

野外の休憩スペースに出ると、目を閉じてととのい椅子に座った人が多数います。私もかつてそうでしたが、サウナーになる前は、サウナ室と水風呂を繰り返すだけで、この風に吹かれる休憩の時間がありませんでした。

今、こうして目を閉じて気持ちよさそうに椅子に座る人が多いということは、正しいサウナの入り方を分かっている人が増えたということでしょう。そして、そのような人達は若者の割合が多いように感じられます。

ブームの先は…

このサウナブームの発端は、タナカカツキ氏の本とマンガ「サ道」であると言われています。もともと何となくサウナが好きだった私が、本格的に通いだしたのもこれらの著書を読んでからでした。

ブームはじわじわと、しかし確実に広がっています。

書店に行くとサウナに関する雑誌が何種類も見られます。テレビでも、タナカカツキ氏の「サ道」がドラマになりましたし、他にもサウナを紹介する番組があります。私は自分からはテレビを見ない人ですが、妻は目ざとくそれらの番組を見つけ、私のために録画してくれます。

ブームは自治体を動かすまでになっています。多くの自治体でサウナを利用して人を集めようとしています。冷たい気候やきれいな水がある場所は、それがサウナー達を引き付ける要素になるのです。

私は思います。「このブームはどのような影響をもたらして、先には何が待っているのであろう」と。

私の趣味の中で一番古いものは鉄道です。私が大学生の頃はこの趣味について公言することはありませんでした。特に女の子の前ではそのような素振りを見せることはできませんでした。

鉄道趣味に、暗くてオタク的なイメージがあったからです。

風向きはこの20年で大きく変わりました。今では「女子鉄」という言葉があるように、一部の特殊な人達だけではなく、誰もが楽しめる趣味になりました。

しかし、それには負の側面もあります。鉄道を趣味にする人々が増えると同時にそのマナーの悪さを指摘される機会も増加したのです。特に「撮り鉄」と呼ばれる人々のニュースは毎週のように見られます。

撮影のために田畑を荒らしたとか、列車を止めたとか、通行人に罵声を浴びせたとか、私も鉄道を愛する者の1人として、このようなニュースを心穏やかに聴くことができません。

サウナブームが更に広がりを見せたとしても、それによって迷惑を被る人が増えないことを願っています。

思えば、ここまでブームが広がった背景にはある言葉が関係していると思います。それは、タナカカツキ氏が著書の中で使用した「ととのう」といった言葉です。

氏はサウナトランスの状態をこの絶妙な言葉で表現しました。そして、サウナに入る最終的な目的が、心身ともに「ととのう」ことという道筋をつけました。

「ととのい」を求めるためにサウナに通う。このことはサウナー達の基本的な前提条件であると思います。ということは、ブームの先にあるものは心身共に整った人が増えるということになります。

こういう風に考えると、サウナー達がこれから増え続けても、鉄道で問題になっているような現象は現れにくいと思います。

それにしてもこの「ととのう」という言葉には、強大なパワーが宿っています。ここでも言葉と心の強い関係性を見せつけられました。この言葉をいつまでも忘れないで、健全なブームが続いてほしいです。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。