代替物

年末・3月・ワクワク

毎年年末になるとワクワクしながらネットに打ち込む検索ワードがあります。それは「ダイヤ改正+次の年」であり、昨年なら「ダイヤ改正2024」でした。

JR各社は12月になると次回のダイヤ改正の概要を発表し始めて、私鉄もそれに合わせることが多いです。ですから次のダイヤ改正の大きな目玉は年内に知ることができます。今回の改正なら「北陸新幹線の延伸に伴ってどんな種別の列車がどの程度走るか」と言ったことです。

しかし細かい部分のダイヤは時刻表が発売されるまで知ることができません。ですから時刻表3月号は、鉄道好きにとって一年で最も待ち望まれる雑誌となります。かく言う私も物心ついたころから、このダイヤ改正号は待ち望んだ末に発売されるとすぐに購入し、その日はしばらく読みふけっていたのもです。

JRが分割民営化する以前から時刻表は愛読書だったため、私は民営化後もJTBのものを買い続けています。最近では「小さな時刻表」がお気に入りです。先日私は今年もワクワクしながらダイヤ改正号を買いに行きました。自宅にもって帰り読み始めました。

読み始める前はワクワクしています。しかしすぐに「ワクワク」は「あーあ」に変わります。今年だけではありません。ここ10年以上同じです。長年の習慣のため、ダイヤ改正号を読み始める前はパブロフの犬のように自然とワクワクするのですが、それがすぐに萎えてしまうのです。

理由は分かっています。内容が面白くないからです。何が面白くないのか言語化していきます。

ネットワーク

時刻表を読んで嫌な気分を感じたのは1997年でした。この年、北陸新幹線が高崎から長野まで開通しました。それはそれで嬉しいことですが在来線の横川・軽井沢間は廃止、軽井沢から先は第3セクターのしなの鉄道へと変換されました。碓氷峠の区間は仕方がないとしても、長野県内の信越本線が無くなるのは寂しい思いでした。

その後2002年には東北新幹線が盛岡から八戸まで延伸されました。この区間の東北本線は二つの第3セクター鉄道へと転換されました。長野新幹線以降は並行在来線といって、基本的にJRは新幹線に並行する在来線を経営から手放す方針の基で新幹線建設を進めていきました。新幹線に来てほしい地元をその方針に同意せざるをえません。

その結果、この25年間で多くの在来線の幹線区間がJRの路線ではなくなりました。鹿児島本線、信越本線、津軽海峡線、北陸本線といった路線です。

これらの路線は第3セクター転換後も、時刻表ではかつてあったのと同じ位置に登場します。しかし、その中身は似て非なるものです。日本の鉄道は、東海道新幹線が開通した60年前から、中距離以上の輸送を露骨に新幹線に誘導するようなダイヤを組んできました。

ですから新幹線が開通した後の在来線のダイヤをみることは、栄華の絶頂から一夜にして都落ちした貴族の姿を見る思いがします。しかし、それでも長野新幹線開通以前はよいほうでした。落ちぶれたとしても同じ仲間であり、新幹線の隙間を突いて夜行列車が走っていました。支線から入ってくる特急や急行列車もありました。

今回ダイヤ改正号を見て、在来線の全国ネットワークがなくなりつつあると感じました。細長い日本列島の両側に太い幹線があり、そこを軸にしていろいろな方向にネットワークが伸びているのが日本の鉄道の姿です。

そんな中で直江津から敦賀までの太い幹がネットワークから外れてしまいました。実際には線路はつながっています。しかし、とぎれとぎれになりお互いの利害が絡む路線で、困難を調節して直通する列車を運行させるという発想にはならないでしょう。

北前船以来強い結びつきのあった京阪神と北陸・信越地方は乗り換えなしで行くことができなくなりました。この並行在来線の切り捨ては、昨日まで同じ釜の飯を食べて頑張ってきた仲間が、急に他人になってしまうような気がして、私はすごく寂しさを感じます。

そして、同じ意匠の線で描かれていたネットワークが、とぎれとぎれになっている地図を見ると「この国の国力は大丈夫なのか」と不安を覚えるのです。

「民営化は仕方なかったにしてもせめて分割だけは…」わたしはどうにもならないことを悔しがって悶々とします。結局は新幹線以外の長距離列車に乗りたいだけの鉄オタのわがままなのかもしれません。

なんだかんだと言って、こんな状況であっても鉄道に乗れば私は楽しめますし満足もします。しかしダイヤ改正号を見た時の虚しい気持ちは本当ですし、国のためにもネットワークを復活させるべきだという信条を持つのも事実です。

逃避から現実へ

日本の鉄道にかつてほどのワクワクを感じなくなった私が逃げ込んでいる場所があります。それは”Ferrovie dello Stato Italiane” で意味は「イタリアの国の鉄道」です。

かつてはFSと呼ばれる国有鉄道でしたが、民営化の後、現在は国が株主となり運営しています。日本と大きく異なるところは上下分離されていて、地域の運営会社もある傍らで、全国規模の長距離運営会社も存在することです。更に、電圧は異なるものの高速新線と在来線は軌間が同じため直通運行しています。

イタリアは日本と同様に細長く山岳地帯の多い国です。面積は日本の4分の3強で人口は約半分です。人口の多い都市が適度に分散されています。充分に鉄道が活躍できる素地はあります。

私はFerrovie dello Stato Italianeの全国運営会社であるTrenitaliaのホームページに最近よくアクセスします。好きな分野なのでイタリア語で書かれていても意味はわかりやすいし、分からない表現があってもイタリア語のよい練習になります。私にとっては鉄道とイタリア語の二つの趣味を満たしてくれる素晴らしいHPです。

地域に分割されたJRと異なりTrenitaliaは全国をカバーしているため、私が求めているネットワークとしての安心感も満たしてくれます。さらに、Trenitaliaには日本では新幹線以外ではほとんど消えてしまった長距離列車が数多く存在します。

例えば、国の北部ロンバルディア州のミラノからシチリア島のパレルモまで検索すれば、このような列車が表示されます。

少し見にくいと思いますが一番上の20時10分発の1963列車にはIntercity Nightのマークがついており、夜行列車であることが分かります。この列車はミラノからパレルモまで20時間45分をかけて直通します。国の北から南まで直通する列車が残っているのです。

さらに、イタリア半島とシチリア島を結ぶ橋はまだないため、この列車はメッシーナ海峡を列車ごとフェリーニのせて移動します。書いていて興奮してきました。例えていうなら、関門橋も関門トンネルもない日本で東京から鹿児島まで直通列車で移動するようなものです。下関と門司の間は車両を連絡船に載せて運ぶのです。

当然のことながらこの1963列車は機関車にけん引される客車列車で、個室の寝台車とクシェットと呼ばれる日本のかつてのB寝台のような車両で構成されています。HPからは分かりませんが、おそらく座席車も連結されていると思います。

日本ではもう乗ることができなくなった、このような一般利用者のための長距離列車を、イタリアではまだ楽しむことができるのです。しかもこのような列車が走っているのはこの区間だけではありません。HPを見てみるとミラノからレッチェ、トリノからナポリ、ローマからトリエステなどの長距離夜行列車が確認できます。

さらにイタリアはフランスやスイスと国境を接しているため、フランクフルト、ミュンヘン、ウィーン、パリなどへ国際長距離列車が走っています。新幹線に頼りすぎて在来線ネットワークが貧弱になっていく日本と比較して、イタリアの鉄道はあまりにも魅力的に感じられます。

現実逃避のために見始めたイタリアの鉄道HPですが、日に日に現地に行って乗りたいという思いが募ってきています。考えて、行動して、決断すればそれが可能な環境に私は生きています。

私は動いていきます。日本で十分にできなかったことをイタリアで取り返してみたいと思います。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。