敬称について
力士について文章を書く時、敬称の使い方が難しいと感じています。一般的に四股名につける敬称は「関」ですが、これはどの力士に対してつけてもよいというものでありません。
「関」の元になった「関取」とは十両以上の力士、つまり大銀杏を結って土俵入りを行い、決まった額の給料をもらうことができる身分、力士として一人前になったことを表します。
では幕下以下の力士に対してはどのような敬称をつけるのかというと、テレビでは「さん」をつけて呼ばれていたのを耳にしました。
幕内十両は「関」、幕下以下は「さん」をつける、それでいいかといえば必ずしもそうとは限りません。
相撲取りの中には十両から陥落したり、幕下と十両を行ったり来たりする力士もいます。そのような人々は十両以上では「関」を、そこから落ちれば「さん」をつけられますが、それは現役の時であって引退すれば現役最高位の敬称で呼ばれます。
また、勝負を解説したり第三者に力士を説明するときにも敬称は省略されます。目の前に力士がいて話をするときは「関」を使いますが、勝負の中では敬称は略されます。
さらに元力士の解説者に対してアナウンサーは、2人称として話しかけるときは四股名に「さん」をつけ、昔の映像を語るときは四股名のみで呼びます。
舞の海秀平さんは大相撲の解説に欠かせない元力士ですが、アナウンサーは彼のことを状況に応じて「舞の海」「舞の海関」「舞の海さん」の三種類の呼び方を使い分けています。
この3月場所を見ながら私はそのようなことを考えました。
私は場所が終わるたびにこのブログに記事を書きますが、敬称をどうするかという問題にはいつも悩まされます。力士が好きで尊敬しているので「関」なり「さん」をつけたいのですが、それでは文章に流れがなくなる場合があるのです。
考えすぎても筆が進まないので、今からは基本的に敬称略でいきたいと思います。それでもなお付けないと失礼であると感じたら、その時はつけることにしました。
まさかのインタビュー
今場所の高安はいつもと違うと感じてました。勝ち星を重ねて終盤に入っても、余裕があるというか力みが感じられませんでした。
「何か一つ心の重荷が取れて吹っ切れたのではないか」「彼は欲を捨てたからこそ動きが良くなった」そんなことを私は感じながら終盤を見ていました。
美の海に負けはしましたが内容は悪くなかったと思います。そして千秋楽、見事に苦手な阿炎を倒し十二勝目を手に入れました。今まで何度も手にした十二勝三敗、今度こそはこの数字で幕内初優勝を決めてほしかった。
思えば私が大相撲に興味を持ち始めた時、それは稀勢の里が優勝したあたりでしたが、その時高安は彼のそばにいました。大関にもなり次は彼の時代だと思いました。
あれから七年、何度も賜杯が手に届きそうな位置にいながら、一度もそれに触れることなく黙々と相撲をとってきました。
「今度こそ」と願っていましたが、優勝決定戦で大の里に敗れてしまいました。
私はこの瞬間を義理の父と二人で見ていました。両方が思わず「あーっ」と無念の声を上げました。義父はチェンネルを「笑点」に変え、私は近くのサウナへと車を走らせました。
体を洗ってサウナ室に入るとテレビに高安のインタビューが放送されていました。「あれ?」と思いましたが、それは技能賞受賞のインタビューでした。
「この状況でインタビューするか?」と思いましたが、NHKの決まりなのでしょう、インタビューアーは「今のお気持ちは」と非情な質問を投げかけていました。
高安が「また優勝を目指す」と言っていたのが救いです。来場所からも全力で応援しようという気持ちになりました。
斎王が馬
横綱豊昇龍が十日目に休場するとを決めました。場所前には「何があっても十五日間出場する」と言っていましたが九日目に一山本に四敗目を記した末の決断でした。
普段は豊昇龍に厳しい私ですが、今私は彼の心に共感しようとしています。横綱としてものすごい重圧を感じていると思います。力士として恋焦がれ憧れて全てをかけて到達する場所ですが、そこへ到達すると苦難が待ち受けている、そんな感じだと思います。
人間万事塞翁が馬という諺があります。私たちが行うことの意味はその場ではなく、長い流れの文脈の中で事後的にしか判断できないという意味です。
最近の琴櫻と豊昇龍の歩みを考える時、私はこの言葉が頭に浮かんできます。大関に昇進し偉大な祖父の四股名を継いだ琴櫻、去年の九州場所で初優勝を決めて今年初場所は綱取りがかかっていました。
その九州場所で悔しい思いをしたのは豊昇龍でした。あと一歩のところで優勝を琴櫻に持っていかれました。それも力で持っていかれたというよりも自ら足を滑らせて。
初場所では逆の結果になりました。綱取りのかかった琴櫻は二日目からの五連敗を含むまさかの五勝十敗。後半の彼の表情を見るのが辛かった。
一方豊昇龍は九日目に平戸海に負けて三杯目、綱取りは絶望的の雰囲気の中で六連勝プラス巴戦での勝利。あっという間に横綱昇進を決めました。
その時の豊昇龍は本当に嬉しそうに見えました。しかし、その喜びの先にある横綱の世界はある意味残酷です。
負けてもカド番、さらに負けても関脇で10勝チャレンジ、さらに負けてもしばらくは幕内。それでもダメなら十両で。そのような選択肢が横綱になった瞬間に消えてしまいます。
どんなに若くて現役を続けたくても、強くない横綱ではそれは叶いません。本当に大変な地位です。その地位へ直近で言うなら琴櫻も大の里も足を踏み入れることを願っているのです。
その他もろもろ
ステップ返し
二日目の遠藤-熱海富士戦での出来事。いつものように最後の仕切りでステップを踏む熱海富士、それが終わると今度は遠藤もステップ。これに間が狂わされたのか、熱海富士再び軽くステップ。
このステップ返しを見ていて大笑いしました。「遠藤はステップしてたか」と思い、別の日も彼の立ち合いを注目してみましたが、私の見る限りこの日だけの動きでした。
ニコニコインタビュー
九日目に豊昇龍に、十日目に琴櫻に勝ったのは今場所幕内上位の一山本。二日連続でインタビューを受けましたが、力士のインタビューの中で彼のようなものを見るのは初めてでした。
口数が少なくぼそっと話す力士たちとは対照的に、彼の声は高くて明瞭で生き生きとしたものでした。思わず吹き出したのは、十日目、笑いながら質問に答えた一山本が最後に「ありがとうございまーす」と語尾を伸ばしたこと。
このインタビュー、ラジオでは終わった後アナウンサーの「ニコニコインタビューでした」」の発言もあり2度笑いました。
ファーストコンタクト
九日目の翠富士ー白熊戦。翠富士「白熊には触ったことすらありません」の発言がアナウンサーから告げられて立ち合い。しかしファーストコンタクトは立ち合い不成立。
気を取り直して二度目の仕切りで翠富士の目の覚めるような肩透かしが炸裂。白熊は対戦後「あの肩透かしのタイミングは勉強になりました」と答えていました。
少し強引
ウクライナ出身の安青錦の活躍には驚かされてばかりでした。幕内力士たちを相手に、あの前傾姿勢のまま叩かれることなくついていくのです。来場所中心となる力士だと思います。
その安青錦、生田目戦で相手を切り返して倒した後すかさず生田目の元へ駆け寄りその手を握ります。それから生田目が起き上がるまで手を引っ張り続けるのです。その強引ながら思いやりのある所作に笑みが浮かびました。