令和七年九月場所

教師も生徒も夏休みの終わりは同じ気分になるようで、8月末の職員室は「ああもう授業が始まるのか」と少し重い雰囲気になります。私はというと、相撲が好きになって以来休みが終わることよりも「早く九月場所が見たい」という思いの方が強く精神的に助かっています。

しかし、その分九月場所が過ぎ去った今、一般の人々にひと月遅れた気分の落ち込みを感じています。簿記の借方と貸方が釣り合うように、人生もトントンなんだと感じる次第であります。

今場所も印象に残ったことを書き綴ります。

若くて強い

幼い頃の実家にはテレビが1台しかありませんでした。そしてそのテレビには、場所開催中はいつも相撲が流れていました。祖父母が揃って相撲好きであったからです。

私は興味もない相撲をダラダラと見ていました。千代の富士という筋肉質な力士がいつも勝つので面白くない、そんなことを思っていました。そのうち祖父母の部屋にもテレビが付き、私が相撲を見せられることもなくなりました。

今子供が相撲を見せられたら、かつての私と同じことを感じるかもしれません。「大の里がいつも勝つので面白くない」と。

今年はこれで三場所優勝を成し遂げました。去年は二回です。千代の富士のように見た目はそれほど筋肉質ではありませんが、若くて強い横綱が誕生したと思います。

豊昇龍の成績が横綱としては安定していなく、琴櫻も大関になてから不安の多い場所が続いています。三役勢の平均年齢も高く、彼を止められそうな若い力士は安青錦ぐらいかと思います。

なかなか大関が生まれない、また生まれても横綱まで昇進しない中、しばらくは大の里が勝ち続けると予想しています。個人的には、柏鵬、北玉、輪湖に続いて尊富士と大尊時代を築いてほしいと思っています。

ハワイ→モンゴル→

「これって、良い相撲の体勢なのか?」

前傾姿勢で相撲をとる安青錦を見ながらそう思っていました。しかし、解説を聞くとこの形で勝負を続けるのは相当体幹が強くなければ無理とのことです。そして彼は前屈みでも叩きに倒れません。相手はまわしを取りに行こうと思っても手が届きません。そのうち隙をついて攻め込みます。良い相撲の体勢だと思います。

実際に、安青錦はこのスタイルであれよあれよという間に三役まで上がり、大関も目の前に見えてきました。少し前まではウクライナといえば獅子の名前が出てきましたが、完全に立場が逆転しました。

とはいえ獅子がダメなわけではありません。今場所の番付は幕尻でしたが、十五日間終わってみると二桁10勝の成績をあげ、来場所はかなり番付を上げます。

二人のウクライナ出身の力士が大相撲を盛り上げています。2022年のロシア侵攻以来、苦難の道を歩んでいるウクライナ国民にとって二人の活躍はどのように映っているのでしょうか。国民に希望を与える存在であってほしいと願います。

高見山を魁として、小錦、曙、武蔵丸とかつて大相撲でハワイ出身の力士が大活躍しました。今世紀に入ってからは、モンゴル出身力士が活躍して、幕内の星取表を見ると「これが日本の国技か?」と思わずにはいられないほどの存在感を示しています。

ロシアとの戦争が終わり、ウクライナに自由が訪れた時、戦争中に活躍した両力士に憧れて角界への入門を希望する若者が増えるかもしれません。ハワイ、モンゴルに続く存在になる可能性を秘めていますが、そうなると家元の日本の若者により奮起してほしいと思います。

のびのびと

「肩の力を抜いて頑張る」という言葉がありますが。人はリラックスした時の方が実力が出せるということを表します。それを超えて極限まで自分をコントロールする世界もあるのでしょうが、一般的には力が抜けている方がうまくいくことが多いのでしょう。

ここ数場所の正代を見ているとそのことを強く感じます。もう、表情からして4年前とは全く異なります。大関という立場の重圧からか、不安そうな表情がよく見られました。負けたら目が泳いでいました。そんな時、私は「しょんぼり正代」と失礼な呼び方をしていました。

全ての勝負を見たわけではありませんが、今場所はのびのびとした表情で相撲をとっていたと思いました。今まで体を弓形にして相手を受ける展開が多い彼の相撲ですが、今場所は最初から素早く攻め込む相撲も見られました。

「大関の時にこんなに素早く攻めていたか」私は嬉しくなり、テレビに向かってツッコミを入れました。

九日目に飛猿に勝って勝ち越しインタビューで彼は言いました。

「勝ち越した後に崩れることが多いんで・・・」

その言葉通り後半6日は2勝4敗。本当に愛すべきキャラの力士です。

半世紀

基本的に30分に編集されたダイジェストで取り組みを見ていますが、時間のある休日はできるだけ相撲中継をダラダラと見るようにしています。勝負の合間のアナウンサーと解説者のやり取りが聞き応えがありますし、幕内が始まる前の特集も魅力的なのです。

今場所は9日目に今場所限りで引退する床中さんの特集を見ることができました。力士や親方を除く相撲関係者で、行事や呼び出しはテレビによく映りますが、床山は滅多に目にすることがありません。

床山も呼び出しや行事と同様に相撲部屋に所属し、特等から5等までの6つの階級が存在します。床中さんは50年のキャリアを持つ特等床山で、来月65才の誕生日を迎え引退します。

「言葉では教えてくれない」床中さんが言っていました。高校を中退してこの世界に入り、見様見真似で先輩から技術を学んだと言います。

「髷が下手だから負けるんだ」

時にはそんな言葉をかけられることもあったと言います。5年間辛抱して、さらに5年間辛抱して、気がついたら半世紀の時間が経っていたと言います。

このような徒弟的な世界は現在では通用しないかもしれません。しかし、その中で鍛えられたからこその美学と味わいが彼の言葉や表情から伝わってきます。

合理的で効率の良い世界は正しいですが面白くありません。人の感情は非合理的ですし、その営みは非効率であるからです。大相撲の世界は、正しさよりもそのような人間らしさの方が大きく、それが魅力となっています。

その他いろいろと

着ぐるみ

湊川親方を見るたびに「えーっ!」と声を上げます。見るたびに姿を変えるからです。髷はまだ残っているものの、すらっとした姿は元力士に見えません。眉やお肌の手入れも入念で、今時の若い男の子と変わりません。

人ってあれほど体型を変えられるものだと感心しています。現役のときには着ぐるみを着ていたのではと思えるほどです。ただ、親方としての稽古はどうやってつけているのだろうと一抹の不安を感じます。

切り抜き作りたい

初日のお昼、三段目の取り組みを見てエキサイトしました。小さな山藤が、113キロの体重差の安芸の山をひっくり返したのです。

名鑑を見ると山藤は体重74キロしかありません。私よりは重いですが、お腹周りは私の方が大きそうに感じます。そんな力士が技術で大型力士を倒すのです。まさに相撲の醍醐味です。

今場所三段目筆頭で四勝三敗の勝ち越し、来場所は幕内で相撲をとります。昼間のBS放送を録画しておいて、山藤ダイジェストを作ろうと考えています。

目を疑う光景

九日目、今場所で引退する床中さんのアーカイブ映像を見ていたところでした。床中さんによって結われた大銀杏の騏乃嵐、その奥に呼び出しの姿が映ります。指に何やら白いものを挟んでいると思った瞬間、口からブハーっと煙が吐き出されました。

呼び出しが花道奥で喫煙をしているのです。「いくらなんでも」と思いましたが時代は昭和50年代。同じ時代に小学生であった私の担任の机上には灰皿が置いてありました。職員室ではなく、教室の机です。しかもそれは生徒からの贈り物でした。

今学校の敷地内で喫煙することはできません。外で吸うとすぐに住民に通報されます。タバコをやめて本当に良かったと思います。

気になる砂かぶり

テレビに映る砂かぶりの観客ですが、明らかにそれを意識しておられる方も多数見られます。

一日目、赤房下に30代くらいの青いシャツを羽織った男性が座っていました。シャツの下からはTシャツに描かれたドラえもんの姿が見られました。

二日目、同じ場所に高須クリニックの高須院長の姿が。有名人だからすぐわかります。青いジャケットの下にドラえもんのTシャツが見えます。こうなれば私は「!」「?」となります。

ドキドキしながら三日目を待つと、そこには普通の方が普通の格好で座っていました。最初の二日間が仕込みだったのか偶然なのかはわかりませんが、何かと人々の顕示欲が詰まっているのがあのゾーンであることは確かです。

関連記事: 令和七年七月場所   令和七年五月場所

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。