令和八年一月場所

ジャンケン

グーはチョキに強く、チョキはパーに強く、パーはグーに強い。ジャンケンはよくできていると思う。勝ちの中に負けが含まれ、負けの中に価値が含まれる。関係性が変われば状況も変化する、そんな普遍の真理を感じさせてくれるゲームである。

大の里、安青錦、豊昇龍この3人の関取を見ているとこのゲームを連想してしまう。大の里は安青錦に強く、安青錦は豊昇龍に強く、豊昇龍は大の里に強い。

そして今この3人が大相撲の中心にいる。誰が強いのか。この3人が一番強い。しかしその中で最強は誰なのかと問えば誰でもあり誰でもない。これが、勝ち抜きのトーナメントではなく十五日間異なる相手と対戦する大相撲の面白いところ。

力士同士の相性というものは本当にあるのだと思う。番付が下であっても勝てない相手はいる。例えば元大関の御嶽海。龍電に対してかなり分が悪い。今場所を迎える前はなんと2勝11敗であり、今場所勝利してようやく3勝目。

しかし、このようにトップ3がこのようにジャンケン状態になることは珍しいと思う。この3人のバランスを崩すのは、第4の存在である琴櫻であるが誰に対してもかなり負け越している。

3人ともまだ若いのでしばらくこの均衡状態が続くのか、それとも安青錦が大の里を克服して抜き出るのか、相撲をみる楽しみは尽きない。

カメハメ波

すごいものを見てしまった。10日目の獅司ー藤の川で激しい攻防の末、土俵際で獅司が藤の川を押し出す。その際、獅司の右手による最後の一押しがタイミングよく藤の川に入る。藤の川は吹っ飛んで、そのまま背中から土俵下で待機していた平戸海にぶち当たった。

「おお〜、カメハメ波だ」と私は叫んだ。

獅司の手の平から波動が出て、その力を受けた藤の川が吹っ飛んだように見えたのだ。ドラゴンボールの孫悟空は両手をお腹の前につけて波動を出すが、まあ片手でもいいではないか。とにかくものすごく強いエネルギーが相手に伝わったのだ。

今場所、獅司の調子がすごく良かった。同郷の安青錦がありえないほどの活躍をしていることを意識しているのだろうか。相撲の取り方も姿勢を低くして安青錦に似ているように思えた。あのものすごい大きな太ももで姿勢を低くされたら安定するだろうなと、素人見立てながらに思った。

獅司には飛ばされた藤の川であるが、今場所も土俵狭しと動き回って面白い相撲を見せてくれた。激しく当たって動き回り、画像を見ると藤の川だけ1、5倍速で再生されているように見える。

ファンが掲げた絵が最高に面白かった。大きな弾丸の一番前の部分が藤の川の顔になっていたのだ。あの素早さ、確かに弾丸か。

ファンの絵といえばもう一枚。「この顔が好き」の文字の上には眉間に皺を寄せた琴櫻の似顔絵が。最後の仕切り前に気合を入れる顔である。

相撲はいろいろな楽しみ方があって面白い。

序盤の楽しみ

初日と二日目、私は金星が出ることを期待しながら相撲を見ていた。なぜなら、金星が出ればそのあとインタビューがあるからだ。横綱の相手は一山本。今一番インタビューを見たい力士である。

力士がインタビューを受けるのは、金星以外には大関戦勝利、それに早い時期での勝ち越しとなる。今場所一山本は前頭筆頭、最初から横綱・大関と対戦する番付である。

金星をあげられなかった一山本、私は三日目の安青錦戦に期待したがここでも負け。四日目は琴櫻戦、三連敗でここで逃すと今場所のインタビューはなくなる可能性が高い。私の興味は相撲の内容よりインタビューに飛んでいた。

右四つでしばらく組み合ったままの二人であったが、最後は一山本が倒れながらも琴櫻を投げて大関戦勝利。やったーインタビューだ。

今回のインタビューでも一山本はハキハキと「〜がよかったと思います」を連発。最後は「楽しいです。頑張ります」で締め、見ていた私も「楽しかったです」で相槌を打った。

この二人の対戦を見ながら、名曲「グリーングリーン」の日本語バージョン「ある日パパと二人で語り合ったさ」の歌詞が私の脳裏に。二人の締め込みの色がどちらもグリーンだったことによる私の脳の反応。

密度で決まる?

私の行きつけの立ち飲みの常連客の一人は、場所が始まると高安について語り始める。話すのは彼の上半身の体毛の密度である。その常連さんによると「毛が薄く見える時の高安は調子がいい」と言うのだ。

その理由は、高安が場所前に練習をすればするほど体毛が擦りきれて薄くなる、つまり場所中に体毛の薄い時はしっかりと稽古ができている証拠だと言うのである。それは本当かどうかわからないが、その話を聞いて以来私も高安の体毛の密度に注目するようになった。

今場所の初日「いつもと変わらず濃いな」と思った。しかし、三日目と四日目には「薄い!」と思った。彼のものすごい相撲を見たからである。

日本大相撲協会公式サイトに「好取組十五番」」というページがある。場所を終えたあと、その場所を代表する幕内の十五番が動画へのリンクと共に載せられている。そのうち二つは高安の三日目と四日目の取り組みであった。私はどちらもテレビで見ていた。鳥肌がたった。

三日目は大栄翔戦。お互い激しい突っ張り合いが続く。その気合いにこれは打撃技もある格闘技であると、当たり前のことに気付かされる。高安が押されたかに見えたが、大栄翔の左腕を取って俵の上で投げる。大栄翔の体が背中から落ちて館内は大歓声。「腕捻り」という決まり技であった。

続く四日目の伯乃富士戦は激しく当たったあとお互いにまわしを探り合う展開。伯乃富士が高安の左腕を極めようとした時、逆に伯乃富士の右腕を取ってくるりと投げた。伯乃富士はお腹から土俵にどてり。これは「逆とったり」という技。

私は滅多に出ない大技が見られて大満足。高安の相撲のうまさに酔いしれた。こうなると体毛が薄く見えてくるから、私の見立てなどあてにならない。

がんばれあと一歩

私が大相撲に興味を持ち始めたころ、一番最初に贔屓になった力士は炎鵬だった。理由は簡単で体が小さかったから。無差別級の大相撲で、小兵が大型力士を倒す姿は誰もが喜ぶ定番の醍醐味。

十両だった炎鵬が幕内に上がり、最重量の逸ノ城を押し出した瞬間、私は一緒にいたオーストラリア人の友人と大興奮した。私は彼に大相撲の解説をするために一緒に立ち飲みで飲んでいたのだ。彼はベストなタイミングで最高な勝ち方をしてくれた。

そんな彼も令和五年の五月場所からケガによる休業が続き、番付を序の口まで下げた。ニュースによると頚椎の怪我で、一時期は首から下を動かすことができなかったらしい。私はもう彼の相撲が見られないかもしれないと悲観的に考えた。

しかし炎鵬は怪我の中「辞めるなんて考えたことない」とコメントした。なんて前向きなんだと、改めて彼のことが大好きになった。本当に相撲が好きなんだと思った。

今場所、炎鵬は幕下11枚目で6勝1敗の成績。来場所勝ち越せば再び関取の地位に手が届きそうだ。大阪場所で私は全力で応援する。

関連記事:令和七年十一月場所    令和七年九月場所

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。