呼び出しデイ
NHK大相撲中継10日目の番組表を見て、妻が狂喜しました。「呼び出しデー」と書かれていたからです。その日の午後3時から6時の総合放送では呼び出しが出るたびに解説者による紹介が行われました。また普段はあまり目にすることもない、土俵作りなどの呼び出しの裏方としても仕事も映し出されました。
妻は呼び出しと行司を中心に大相撲中継を見ており、中でも序二段呼び出しの天琉氏を贔屓にしています。最初は「嵐」の大野君に似ているという理由から見始めましたが、今ではそんなことも関係なく彼のファンになり一挙手一投足に注目しながらテレビを見ています。
ただ、まだまだ若い天琉氏が呼び出しをする姿はテレビで見ることができません。あと2~3年すればBSで放送している時間帯にでるかもしれません。幕内となると20~30年の世界です。
力士と同様に呼び出しにもきっちりとした序列があり、勝ち負けが無いため上に上がっていくためには努力に加えて継続がものを言う世界になります。華やかな土俵の裏で、ここでも伝統を厳格に守りながら勝負を支え続ける人たちがいる、このことも大相撲の魅力の一つであると思います。
妻は天琉氏が幕内呼び出しになるまで相撲を見つづけると言っています。まるで自分の子どもを見るかのような感覚です。私も土俵脇に映る若き呼び出したちが、中入り後に四股名を呼ぶ姿を楽しみにしています。
アイラブユー
「自分の頭は大丈夫なのか」と思うことが多々あります。以前に何回か書いたオヤジギャグなどの言葉遊びに関してです。四股名に関してもすぐに頭の中で韻を踏もうとしてしまいます。
名前に関することなので、人前で口に出すと不快な思いをする人がいるので心の中や独り言でつぶやくのですが、親しい人の前では思わず口にでることもあります。一つだけ紹介させてください。
今場所初めに引退を表明した東龍関です。私はこの力士名前を聞くと「アイラブユーあずまりゅう」と反応していました。母音が3カ所一致するので語感が良いのです。ずっと「アイラブユーあずまりゅう」だったのですが、昨年の終わりごろから後ろに「へずまりゅう」が加わるようになりました。
「アイラブユーあずまりゅうへずまりゅう」とは、もはや何が言いたいのかよくわかりません。しかも私はへずまりゅう氏が誰なのか最近まで知りませんでした。
私の頭の中では日々こんなことが起こっています。いい加減疲れると思うことも多々あります。東龍関は真面目さがひしひしと伝わってくる存在感のある力士でした。引退はしかたのないことですが、ここ数場所で徳勝龍、明瀬山に続きまた一つベテランの力士がいなくなり寂しいです。
流行りに目もくれず
日々10代の男子に接していて思うことがあります。それは肌に対する感覚が我々の時代とまったく変わってしまったことです。私の感覚ではひげを始めとして肌に毛があることは男のたくましさを象徴しています。しかし、現在の若者は髪や眉毛以外の毛を極端に嫌います。
私はこのことを職場からだけでなく、頻繁に行くサウナや銭湯からも感じています。今求められているのはツルツルまたはスベスベの肌であり、毛におおわれた胸や足は忌み嫌われるものになっています。
そのため脱毛産業は今やかつてない規模に成長しています。個人的には必要があるから体にも毛が生えてくるのだと思うのですが、「なかった」需要を「必要なもの」として作り出してそこにお金の流れを作るのは資本主義の真骨頂なのでしょう。
そういえば関取の中でも翔猿関は脱毛サロンにいっているという話を聞きました。もしかすると肌がきれいな遠藤関や熱海富士関もそうなのかもしれません。
そんな現代の風潮の中、私が頑張ってほしいと思うのは高安関、霧島関、豪ノ山関です。理由は流行りを気にすることなく我が道を行っているところです。いろいろな個性があって力士の世界も面白いと思いました。
この勝負だけで
千秋楽で最も盛り上がった勝負は、もちろん照ノ富士と琴ノ若の優勝決定戦だと思いますが、それに負けずとも劣らないくらい会場が湧いたのが宇良と竜電の一番でした。
私はこの勝負を行きつけの立ち飲みで見ていましたが、一瞬何が起こったのか分かりませんでした。宇良が竜電の下に潜り込みました。頭が出せないのかなと思った一瞬、宇良が反りかえって竜電を背中で投げたのです。
このバックドロップのような技は「伝えぞり」という名で、22年ぶりに記録されたそうです。私はこの勝負を見るだけでも会場に足を運ぶ価値があると思えました。宇良関はこういった予想外の技を出してくれるから人気が高いのだと思います。
「会場に足を運ぶ価値」と書きましたが、少し考えなおしました。私がこの技を見た時思ったのは「早くリプレイを」でした。リプレイを何度も見るたびに「ウォー」っと言って盛り上がりました。これは会場ではできません。
そういえば今まで相撲の会場に行ったときも、無意識のうちにリプレイ用のモニターを探している自分に気がつき、その度に「ここは野球場ではないんだ」と思いました。現代人にしみついたクセなのかもしれません。
勝負は一度きり、見逃したらそこで終わり。この緊張感も相撲観戦のよいところかもしれません。とはいっても仮に私がこの勝負を会場で見ていたとしても、すぐにネットで「NHK動画配信」を開いていたと思います。それぐらい面白い一番でした。
藤原氏
今場所、十両で圧倒的な強さを見せた力士がいました。伊勢ヶ濱部屋の尊富士関です。入門から9場所目の今場所において13勝2敗で優勝、来場所では幕の内で相撲を取ります。
幕下付け出しなど一切なく前相撲からのスタートであることを考えると異常なほどのスピード出世です。復帰した伯桜鵬といい、初入幕でわかせた大の里といい、こういった若くて勢いのある力士の存在が次の場所の開催を待ち遠しくさせてくれます。
それにしても現在の伊勢が濱部屋の勢いはすごいものがあります。唯一の横綱である照ノ富士を始め、翠富士、熱海富士、錦富士はこれからの相撲界を背負う三銃士。私の好きなベテランの宝富士に、兵庫出身の照強、昨年九州場所で優勝した聖富士は来場所にでも十両を狙えるポジションにいます。
これだけ強い力士が揃っていれば、普段からすごいレベルの稽古をしていると想像できます。まだ幕下以下の力士にとっても大きな刺激になるでしょう。
追手風部屋や木瀬部屋にも関取は数多くいますが、現在の伊勢ケ濱は44ある相撲部屋で一番の層の厚さを誇っていると思います。思わず道長・頼道のころの藤原氏を想像します。
どんなに頑張っても関取の数には限りがあるため、どこかの部屋に関取が誕生すれば別の部屋の関取が減ることになります。ドラフト制度もない相撲界なので部屋による関取の偏りは仕方がありませんが、すべてが変わりゆくのが世の常であります。関取のいない部屋も、そのことを信じてよい力士を育てていただきたいと思います。