酒飲み友達
私には週に1〜2度顔を出す立ち飲みがあります。10年には届かないまでも、常連になってかなりの年月が経っています。お酒はどこで飲もうと酒なのですが、立ち飲みに通うのはそこに集う人々に会うためであります。
私もこの店に通ううちに多くの常連さんと知り合いになりました。普段昼間過ごす時間のほとんどは学校で、社会人になってできた知り合いもほとんどが教師のため、こような立ち飲みの常連さんは外の世界を知るための貴重な存在です。
常連さんとの会話も人によって話題が変わります。料理が好きな人、日本酒の蔵巡りが好きな人、海外旅行が好きな人、北海道に頻繁に訪問する人、どんな人との話もその人の人生観が伝わり面白いです。
そのような常連さんの中で、私が一番仲良くさせていただいているのが、バイク好きの人々です。酒とバイク、乗るなら飲めませんし、飲んだら乗れません。
私たちは最初後者で、立ち飲みのカウンターでバイクについて語り合うだけでしたが、それだけでは物足りなく3年前にツーリングクラブを立ち上げました。
初めての日帰りツーリングを終えた時は、少し変な感じでした。今までシラフで会話したことがなかったからです。飲んだら饒舌な私たちですが、アルコールが入らないと皆少しぎこちなく会話が続きません。
そんな私たちですが、宿泊して一緒に飲んで食べるツーリングを重ねるうちに、日帰りでも、つまりシラフでも盛り上がるようになってきました。最初は4人で始めた会でしたが、現在は7人になり、まだ増えそうな気配がしています。
先日は、そんな仲間6人と日帰りツーリングに出掛けてきました。走りながら、私は「動物的な感覚」について考えました。
気配を感じる
神戸市北区のとあるコンビニに私たちは朝8時に集合しました。兵庫や京都の北へ向かう時は大概ここに集合します。ガムや飲み物を買い、並んだバイクを撮影すると、次の目的地と走る順番を確認して出発します。
私はいちばん後ろを走ることになりました。コンビニの駐車場から通り慣れた道に入ってすぐに、いつもと感覚が違うことに気がつきます。
今まで私たちはたいてい3人か4人で走っていました。それが5人に増えました。先頭から最後までの長さが今までの倍ぐらいになった感覚です。最後尾を走っていると、先頭はけっこう先でカーブでは見えなくなります。
無意識のうちにさまざまな所に気を配っているのがわかります。前のバイクとの距離、全体の流れ、信号が変わりそうな気配、対向車の様子などです。
バイクが複数台で走る時は、一つの車線の中、ちょうど四輪車のタイヤ跡の上を左右順番に走っていきます。しかし今回は乗り始めて1年の人がいたため、その位置が安定しません。それはすぐに後続車の位置どりにも影響します。
「距離は大丈夫か?」「左右は大丈夫か?」「信号は大丈夫か?」「対向車は大丈夫か?」私は緊張の中でバイクを走らせます。そんな中でも、アクセルを操作し、クラッチを切り、ギアを変えて、体を倒します。緊張と心地よさが交錯します。
気持ちよくて思わず歌が出てきます。この日私に取り憑いたのは「5台で〜走る〜♪」というメロディーでした。すぐにもう一人の自分が「なつこー!」と合いの手を入れます。
今バイク5台で走っていることと、演歌歌手の伍代夏子さんをかけたものです。私の頭はいつもこのような歌を生み出してループしていきます。このメロディーは途中で一人合流して6台になるまでエンドレス再生されていました。
動物の気持ち
途中のコンビニで6台になり、先ほどまでと違った位置取りで目的地へ向かいます。今度は真ん中です。今まで以上に周りの気配を感じ取りながら運転に集中します。
私は群れで移動をする動物はこのような感覚なのではないかとふと思いました。狩りを行う肉食動物のオオカミやライオン、それらから逃げる鹿や馬などの草食動物。どちらも集団で移動します。
それら動物の集団とバイクで走る私たちに共通することがあります。それを数式で表すと「言葉<五感」となります。
動物に人間的な言語がないのは当然ですが、バイクに乗っている私たちも運転中は言葉を使ってコミュニケーションを取ることができません。言葉はつかえなくても、安全に走行するためにはコミュニケーションが必要になります。
ですから集団でバイクを運転すると非言語コミュニケーションに対する感覚が鋭くなります。
視覚を使って相手との距離や対向車の動きを考えます。前方を走る仲間とバックミラーを通じて目が合うことがあります。先頭を走るときはとにかく信号に気を配ります。きわどいタイミングで通過した後は、必ずミラーで後ろを確認します。
聴覚でエンジンの音を確認します。前を走る仲間がギヤを変える様子やカーブに入っていく感じがわかります。トンネルの中で大型車が近づいてくるのも気になります。
時には臭覚も使います。雨が近づいてきている匂い。路面の水が乾く匂いなんかです。
体にあたる風や、タイヤを伝わって感じる路面の状態も、大切な感覚情報です。
また、五感を超えた感覚も存在します。走っていると、何だか言葉にならないのですが変な感じがするのです。そんなときはその先でネズミ捕りをしていたりします。
このように五感を働かせながら一緒に走っている仲間が何を考えているのか想像します。カーブの一つ一つで、上り下りやトンネルで、まるで走る集団が一つの大きな生物体になったかのように考えて、感じながら進んでいきます。
このような言葉なしで周りの気配を感じながら集団で動く感覚を、動物の群れは強く持っているだと思います。私たち人間は言語を持ってしまったため、この感覚は退化してしまいました。
それでも集団でバイクに乗ると、生き延びるためにこの感覚が呼び起こされるのだと思います。
周りを考えて五感を使うだけではなく、バイクは五体を使って運転します。ですから体も心も疲れます。そしてその疲労感も含めてツーリングが終わった後の充実感がやって来ます。
眠っていた本能が呼び起こされて孤独だけど仲間を感じることができる、やはり仲間とバイクで走ることは楽しいものです。
