一見、敷居がものすごく高い
こんにちは、大和イタチです。
現在の職場に移動して約3年になります。
最寄駅から十数分歩いて職場に通っています。
往復約30分、とても良い運動になっています。
帰宅途中、最寄りの駅近く、少し住宅街へ入ったところに1件の小さな酒屋を発見しました。
5時からは立ち飲みをやっているようです。
入り口から見ると、奥の暖簾の向こう側に角打ちスペースがありそうです。
とても狭くて、いったい何人入ることができるのかなと思うほどです。
おそらく、地元の常連客のみを相手に立ち飲みをやっているのでしょう。
そんな雰囲気です。
帰宅途中、その店の前を何度も通りました。
店の奥、暖簾の向こうに立ち呑み師の足が数人分見えます。
「僕も一杯飲んで帰ろうかなあ」
脳裏に浮かびますが、ただでさえ狭そうな空間、常連たちに混ざってアウェイ感を感じるのじゃないか、そんな不安がよぎります。
世の中にはどんな場所に入っても、すぐに打ち解けて楽しい時間を過ごせるタイプの人がいます。
私もそんなタイプの人間なら、このようにモヤモヤを抱えて、こんなブログを書くことで心を整えることも無かったでしょう。
そこに飛び込んで、こわばった表情のまま、本来おいしいであろう酒を、その旨さを味わえないままお勘定をすましている自分の姿が浮かびます。
もっと気さくな性格だったら、私の人生は変わっていたのかもしれません。
しかし、生まれ持って、数十年にわたって育ててきたこの性格、そう簡単に変えることはできません。
そこは自分の人生にとって、とても良い空間かもしれない。いや、人通りの少ないあの場所で生き残っている酒屋、居心地の良い場所に違いない。店の面構えを見ていると、私にそういう直感が湧き上がってきます。しかし、私にはそこへ一人で飛び込んでいく勇気がない。私の心の何か、おそらく、私がずっと打ち破りたいと願い続けている殻が、邪魔をしている。でも、その空間に足を踏み入れてみたい。
私は後輩の力を借りることにしました。
後輩の力を借りて
20歳近くも年の離れたその後輩Yとは、音楽の趣味が合い、時々居酒屋でメタル談義を交わす間柄でした。
若いけど仕事もできて、周りへの気配りもできる彼は私のお気に入りで、後ろから様々な面でサポートしてあげたくなります。
しかし、今日は彼が勇気のない私をサポートしてくれる番です。
「今日、立ち呑み師として検定があるから付き合ってくれない?」
「検定?それなんですか?」と言いつつも、よくできたY君はお酒の匂いのする誘いは大抵断わりません。
実際に立ち呑み師検定があるとすれば、常連率の多い立ち飲みに入り、よく立ち振る舞い、自分も満足して出ていくのは3級ぐらいに値するかもしれません。
1時間ほどの残業を終えて、二人は例の立ち飲みへ向かいます。
外から眺めるだけで、なかなかくぐることができなかったあの暖簾に手をかける時が、ついにやってきました。
中は予想通りの狭さです。店舗の奥にL字型のカウンターがあり、手前にビールケースを重ねた上に板を置いたテーブルが1つ。定員8名、詰めて10名ってところでしょうか。
L字型の周りには常連さんと思われる立ち呑み師が数名。私たちも入れないこともありませんが、新参者は手前のテーブルへ。立ち呑み師としての気配りです。
カウンターの向こうには冷蔵庫。その横にビールサーバー。あてはカウンターの上に並んでいます。飲み物、食べ物、共に値段は一切表示されていません。さて、この状況で検定開始です。後輩に頼んで暖簾をくぐった以上、立ち飲み師としてカッコ悪いところを見せるわけにはいきません。
直感は確信に
後ろの冷蔵庫にサッポロビールの瓶が見えます。とりあえず、その瓶ビールを2本頼みました。
それと同時にカウンターの向こうで店主が話し始めました。
「初めてのお客様ですね」に続き、酒類のだいたいの値段、主なつまみ、お菓子類のあては店舗からとってきてもよいこと等、どこにも値札がないことを気にしていたこちらの不安を察するがごとくの対応でした。
住宅街で長く続いている立ち飲みにボッタクる店などあるはずがありません。少し構えていた自分が恥ずかしくなりました。
私と同い年ぐらいと思われる店主の対応はとても丁寧で、日本酒についてもこちらの好みを伝えると誠実に対応し、銘柄を選んでいただけました。
お酒やあての値段も非常に良心的で、こんな狭い店でやっていけるのかなと心配するほどでした。
常連さんも機嫌よく飲んでいて、居酒屋によくありがちな愚痴も聞こえてきません。皆さん30分ほどで切り上げて家路についていきます。
「この立ち飲みは素晴らしい場所に違いない」という私の直感は、時間が経つにつれて確信に変わっていきました。
Y君との会話も弾み、いい心持で店をあとにすることができました。
以上が2年前の夏に起きた出来事です。
それ以来この立ち飲みは、家庭・職場に続く私の第3の居場所になっています。
たまに、他の立ち飲みに行くこともありますが、週2回はここで仕事の疲れを癒し、他の業種の方とお話をし、時には店主と語り合い、いい時間を過ごさせていただいています。
モヤモヤ ⇒ ⇒ ⇒ 幸せ?
”第3の場所、持てたらうれしい。”