朝から何かおかしい
シアトルに仕事で来ています。
今日は日曜のため一日自由行動、ホテルで朝食をとった後、電車に乗ってダウンタウンまでやってきました。
商業の中心地ウエストレイク駅からパイクマーケットまで歩きます。
もともと地元の魚や野菜を売っていたこのマーケットは、今やシアトルを代表する観光地として世界中から観光客がやってきます。今でも魚屋や八百屋もありますが、巨大なマーケットの多くは観光客を相手にしたお土産物や装飾品、食べ物を売る店となっています。洒落たカフェやレストランも立ち並び、その一角のスターバックス1号店はひときわ長い行列を伸ばしています。
ぶらぶらしていると、午前中からビールを飲む人、陽気に歌を口ずさみながら歩く人、なんだか朝から街全体が浮かれているようです。道行く人は同じようなTシャツを着て、透明なバッグを手にした人が目立ちます。
何か今日は特別なイベントでもあるのか?
後に分かるのですが、そんな疑問を胸にしながらダウンタウンを歩いていました。
シアトルの象徴の一つ超高層ビル群は、ザっと南北2キロ東西1キロ四方の中に集中しています。人口70万程度の都市に、これほどのオフィスが必要なのかと思えるぐらい数多くの高層ビルが立ち並んでいますが、中心地はどこへ行くにしても徒歩で回れるぐらいのコンパクトな街です。
パイクマーケットはその四角形の北西の角にあり、そこから南西の角にあるスミスタワー方向へ歩いて行きます。
今日はスミスタワー近くにある、キングストリート駅を見たかったのです。
大抵の日本の街では、駅が街の中心にあり、鉄道の好きな私はその土地の駅へ行かないと街を訪問した気分になりませんし、駅を中心に街の地図を頭の中に描く癖が染みついています。
アメリカでは、鉄道が交通手段の中心だった時代はもう半世紀前には終わっていたということは知っていましたが、どうしても駅を見ておきたかったのです。
近付く地響き
パイクマーケットからスミスタワーの方向へ歩みを進めます。
ゆっくり歩いても30分あれば到着するはずです。
あみだくじのように、南北と東西の通りを気ままに選びながら南へ進んで行きます。地図上では平たんに見えるシアトルの中心部も、西から東へ向かって、つまり港のある海から離れるにしたがって標高が上がる丘の上に作られているのがわかります。
ただなだらかに高くなるのではなく、南北の通りを境目に階段状に街が形成されています。
2ndアベニューに出て前方を見るとスミスタワーの美しい塔が見えます。そこを目印に進んでいくと、歴史を感じさせるアールデコ風半円形の窓枠を持ったレンガ色をした建物が増えていきます。
パイオニアスクエア、シアトルの街が始まった場所ですが、今では北にあるビジネス街とは雰囲気が変わり、ホームレスの姿が目立ちます。
雨が少し降ってきました、が誰も傘をさそうとはしません。
私も持参した折り畳み傘をカバンから出そうとしましたが、手を止めました。何となくこの地域でよそ者であることを知られたくなかったからです。
それでも、道端のホームレスから何人も声をかけられました。神経が高ぶっていたのか、彼らの言葉が独特だったのか、何を言っているのかよく分かりませんでした。
スミスタワーを通り過ぎ、キングストリート駅の立派な時計台が見えてきました。
ウィキペディアによると、1906年に建てられた駅で、その教会のように立派な姿はアメリカの鉄道黄金時代を感じさせます。
この辺りから、時々地響きのような音が数分おきに聞こえてきます。
最初はビルの解体か何かと思っていましたが、今日は日曜日です。
駅に近付くにつれてその音は大きくなり、人の声のように聞こえてきました。
何か大きなイベントがあるに違いない、そう思った私は駅を通り過ぎてその地響きの方へ向かっていきました。
道の向こうに多数のパトカーが見えます。定期的な地響きは次第に大きくなっていき、それが人の歓声だと確信した時、目の前には大きなスタジアムが姿を現していました。
その名前はセンチュリーリンクフィールド、シアトルを本拠地とするアメフトチーム、シアトルシーホークスの本拠地で、今日はゲームの行われる日でした。
スタジアムの周りには、午前中に見たチームのTシャツを着て透明なバックを手にした人が多数います。
後で調べて分かったことですが、あのバックは、セキュリティー対策で1辺16インチ以上のバックは持ち込めず、それ以下でも透明なバックに持ち物を入れる必要があるらしいのです。
そういえば、渡航前、ESTA申請の際には私の両親の名前が必要でしたし、入国時も両手すべての指の指紋を電子的に取られました。
ここで暮らす国民にとっても煩わしいほどの警戒ぶりに違いありません。9・11以来アメリカが抱える苦悩が伝わってきます。
国民のスポーツ
目の前に6万人以上収容可能なスタジアムがあります。
外側からは直接フィールドの様子は見えませんが、両サイドに見える巨大な観客席はすべて人で埋まっています。
そして時折、あの地響きのような歓声が。
今まで野球を含めてどんなスポーツを見た時とは異なる、低音で地面から湧き上がってくるような轟音です。
その巨大な渦が、数分おきにスタジアム全体から外にいる私までも巻き込んできます。
アメリカ4大スポーツの中でもフットボールは特別であるという話は聞いていましたが、今日のこの熱狂を目の前にしてそれを身をもって感じることができました。
中でどんなことが起こっているのか、たまらなくなった私はスタジアムの周りをウロウロ。巨大なオフィシャルショップの横の窓越しに、中の飲食施設に設置されたTVモニターが見えます。
リプレイが多くどれが生のプレイなのかわかりにくいのですが、時折モニター内のプレイと連動して生の轟音が聞こえてきます。
今日は多くのシアトル市民にとって特別な日なのでしょう。
アメフトは野球と比べてずっとゲーム数が少なく、そのほとんどが日曜日に行われるようです。
その日曜日、数少ない試合を楽しみにしたファンがスタジアムに詰め掛けてくるのだと思います。
3連戦のある野球とは異なり、シーズン1度のあるチームとのホームゲーム。それは朝からこの街の雰囲気を変えてしまうぐらいのワクワク感なのでしょう。
人口70万人の街で、6万人収容のスタジアムが超満員となり、街のスポーツバーには入れなかった人が溢れています。スタジアム周辺のチームグッズを売る店では、スタッフ全員がテレビ中継にくぎ付けになっていて、声をかけるのがためらわれるほどでした。
翌日の新聞「Seattle times」には、Seahawks extraという12ページのゲーム特集号が付属されており、その見出しには「DAY OF MISTAKES」。対戦相手セインツに33:27で負けたシーホークスは、新聞の中で酷評されていました。それにしても、1試合で12ページの特集です。
ほんの1日、試合開催日の街を歩いただけですが、アメリカ人のフットボールに対する思いが伝わってきました。
熱狂的に応援するスポーツもチームも持たない私は、少し羨ましいと感じました。
アメフト好きな高校時代からの親友のことを思い出し、私はグッズショップへと入りTシャツを買いました。彼がシーホークスをどう思っているかは分かりませんが、とにかく何かアメフトグッズを彼に買いたくなりました。
モヤモヤ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 幸せ?
”好きなチームにどっぷりとのめりこめたら、モヤモヤも少なくなるかも、と感じたが…”