空を見ながら
真っ裸でデッキチェアに寝そべり、視線の先に流れゆく雲を見ながら私は思いました。
「なんて贅沢なことをしているんだ」
私のいる場所は神戸サウナの7階、左側には木造のフィンランドサウナ、その手前には水温11、7度の水風呂が見えます。
神戸サウナは8階建ての建物ですが、私がいる7階ウッドデッキの上は吹き抜けになっており視界を遮るものといえば鉄骨のフレームだけになっています。
その気になればこのフレームを利用して8階部分を増築できそうに思えますが、このサウナではそれをしていません。私の想像ですが、水風呂後の外気浴は吹き抜けの空間で空を見ながら味わってほしいという配慮だと解釈しています。
ここは神戸市中心部、兵庫県でも最も地価の高い場所の一つです。そう考えるとこの建物の作りは贅沢であると思えてきます。
「神戸サウナ」私にとってディズニーランドやUS Jなどよりも遥かに心ときめく、神戸で一番好きな場所の一つです。このサウナに気軽に通うことができるというだけで神戸に住んで良かったと思えます。
他人から見れば風呂に入って食事して昼寝するだけの場所ですが、サウナ好きはここにいると豊かな気持ちになります。たくさんのことに対して「贅沢だなあ」という思いを抱いてしまい、時に小さな罪悪感を感じるほどです。
先週、私は平日に休みをとり神戸サウナをゆっくりと堪能することができました。「贅沢だな」と思ったことをいくつか綴ってみます。
館内着
神戸サウナの浴室入り口にはロッカーがありません。これは浴室に入るたびに館内着を回収用のカゴに入れることを意味します。
受付のある6階のロッカールームで着替えを済ますとそこから先は私服を着ることができません。ロッカールームで館内着の短パンを着用し、サウナハットを手に7階の浴室に向かいます。ここで館内着はカゴへ放られます。その間わずか1分。「この短パン、とっておいて後ではきたい」と思います。
サウナの後、新たな館内着上下を着て8階へ向かいます。ビールを飲みながらの食事を済ませると、漫画を数冊手に取り休憩室のソファーへ向かいます。漫画を読みながら眠りに落ち、目を覚ますとまた浴室へ向かいます。ここで2着目の館内着は役目終了です。
2度目の入浴が終わり、タオルで前を隠したままロッカールームへ行きたいのですが、流石にそれはできないので館内着を着用します。
以上、私はここへ来るたびに最低3着の館内着を着ることになります。私はしませんが、浴室内にもサウナ用のズボンがおいてあり、サウナ室に入るたびに着用する人もいます。なんて贅沢なのでしょう。
サウナマット
ここのサウナ室の入り口脇には大量のサウナマットが置かれています。その下は回収箱になっています。サウナーたちはサウナ室に入るたびに新しいマットを取り、出るときに回収箱にそれを放ります。
多くの人はお尻と足の下用に二枚使用します。私はメインサウナでは一枚で済ましますが、フィンランドサウナは床面が熱いため二枚使用します。
大量に積まれていたマットがどんどん無くなり、回収箱が一杯になります。従業員がこまめにやってきて、マットを補充し使用済みのものをごっそり回収していきます。
毎日何枚のマットを洗濯、乾燥していることでしょう。多くのスーパー銭湯がしているようにウレタン製のマットを使い回せばその手間は省けます。稚内にある最北のサウナに行った時は「マットは一人一枚まで」の表示があり、みなそれにしたがっていました。
ここではサウナマットも湯水のごとく使われていきます。贅沢です。
従業員
サウナーの数も多い施設ですが、それと比例するようにここは従業員も目立つ場所です。浴室内には常に複数の従業員の姿が見られます。彼らの仕事は浴室内を理想的な空間に保つことです。
理想的な空間とはサウナーたちが気持ちよく「ととのい」へ向かって活動できる場所のことです。ここにいると汚れているものが目に入ってきません。
常に湿気にさらされている場所なのでタイルなどが汚れるのは仕方のないことだと思うのですが、ここの従業員さんはひどくなる前に汚れの芽を摘み取ります。ブラシを手にタイルの目地を清掃、二人一組で椅子の裏側を清掃、そんな姿が特に午前中はよく見られます。
また、その姿が楽しそうなんです。仕事をしているというより、理想のサウナスペースを創造している、そんな表情で仕事をしているのです。
清掃以外にも、サウナマット、紙コップ、クーラーボックスの氷と、必要なものが無くなる前にタイミンングよく補充されています。
人手不足の中で、このようなサウナ愛に満ちた従業員を多数持つことはとても贅沢なことだと感じました。
屋外サウナ
浴室入り口、館内着やタオルがうず高く積まれている棚の上には大型液晶テレビが設置されています。この画面からは常時本場フィンランドのサウナ事情を説明するプログラムが放送されています。伝統的なサウナの作り方や職人さんの様子、ヴィヒタの作り方、サウナに入る作法や意味などです。
そんなプログラムの一つに一人の青年が登場して語っていました。
「サウナに入る時、石に挨拶をします。声に出す必要はありません。大切なことは、どんな思想を持ってサウナに入るかということです」
「思想」という言葉が飛び出しました。実際にフィンランド人にとってサウナは、時には単なる入浴という行為を超えた神聖なものであり、儀式や出産の場にもなるそうです。
そのような本場フィンランド人に対する敬意が詰まった場所がここ神戸サウナであり、その象徴が屋外に設置されたフィンランド式サウナです。
このサウナは、ケロ材を組み合わせて作られています。ケロ材とは樹齢数百年のパイン材が立ち枯れの後100年以上経過したものを示し「木の宝石」と呼ばれています。一度に10人以上入れる大きさのサウナ室を作るのにどれだけの宝石が使われているのかと想像してみます。
室内にはテレビがありません。照明もなく窓も小さいため、入った時は中がよく見えません。目が慣れてくるとじわーっと中の様子がわかります。外の音はほとんど聞こえません。
静寂の中、皆黙ったまま自分の体と向き合っています。ロウリュの時、水が石に当たり蒸発する過程が鮮明に聞こえてきます。その後熱気が体を包み込み、皮膚がそれに反応して汗を排出します。
「思想」を持って入れば、自分の内側から何らかの反応が得られそうな環境です。都会の真ん中にそんな場所があること、それは贅沢なことだと思います。
