飼い犬の気持ち

在宅勤務

緊急事態宣言が発令されてから3週間が経過した。この間僕の仕事でも在宅勤務が奨励され、なるべく職場へ行く回数を減らしながら家でパソコンに向かっている。

同僚や相手先と連絡を取り合いながらの仕事なので、在宅の時も働いている時間帯は変わらない。しかし、通勤時間が無い分、朝に余裕ができる。7時ごろ朝食を済ませ、そこから小一時間語学学習を行うと、普段できない貯金をしている感覚で気分がよい。

8時過ぎから仕事に取り掛かり、何杯かお茶やコーヒーを飲みながら昼まで働く。昼食と休憩の後、午後は5時過ぎまで机に向かう。

子どもたちも妻も家の中にほぼこもっている。家族全員がこれほどの狭い空間に長期間にわたって固まり続けていることは初めてだ。かといって会話がはずんだり、みんなでゲームをしたりするわけではない。

僕は基本的に仕事以外は語学を行っているし、息子たちはパソコンかスマホを見ている。妻は家事の合間にTVを見ている。いや、TVの合間に家事をしているといった方がいいかもしれない。思いがけず家にいると、見ないほうがよい家族の姿を見てしまうものだ。

人にはそれぞれのペースがある。僕は嫌いなものを最初に食べ美味しいものを残しておきたいタイプ。妻はその逆。キッチンシンクに食器が残っていると僕はすぐ洗いたくなる。妻は、洗うべき時が来たらそうすればいいと思っている。

自分を許せない人は他人を許すことができない。僕は自分の行動に対してしばしば罪悪感を感じてしまう人。それが僕のモヤモヤが続く原因の一つ。怠惰な部分があっても自分を許してあげたい。だから、ずっと家にいて妻の行動が自分の思い込みと異なっていることがわかっても、何も言わない。かなり言いたくなる時もあるが、モヤモヤ解消への修行だと思って別のことを考える。

午後5時30分

5時半ごろになると仕事の区切りがつく。一日中家にいるので外の空気が吸いたくなる。商店街に出て書店で本を選んだり、スーパーで買い物をしたいが、極力人と接しないように心がけているので我慢する。

そもそも人と会わないための在宅勤務であり、緊急事態宣言なのだ。アメリカでは外出や自由な経済活動を求めてのデモが起こっているらしいが、僕個人としてはこの窮屈な生活も今は仕方が無いと思う。人類は100年に一度の経験をしている。しかしこれがいつまで続くのだろう。

人とは接触しないが体は動かしたい。5時半になるとジャージに着替え、マスクとi-podとICOCAをポケットに入れて外出する。なるべく人の少なそうな場所を選んでランニング開始。ICOCAを持つのは、調子が悪くなったら電車に乗って帰るため。携帯や財布は持たない。

人が少ない道を走るが、そうはいっても街に住んでいるとどうしても人とすれ違ってしまう。今まで意識したことなかったソーシャルディスタンスを意識する。息苦しいので顎へ下げていたマスクを人とすれ違う時には上げる。

我ながら滑稽な動きだと思う。ドローンを使って上空から撮影された僕の動きを想像する。まっすぐ進んでいたものが人に出会う度に、磁石の同じ極同士のように一定の間隔をあけて反発しあう。そんな奇妙なランニングを約1時間続けて家へ帰る。

ランニングを始めて驚いたことの1つは、飼い犬の多さ。夕方のこの時間帯、驚くべき数の犬とその飼い主が散歩道や公園に溢れている。出生率は下がり続け、ペットの数は伸び続ける社会。子供の数より散歩する犬の方が目につく。

いろいろなことを考えながらゆっくりと走る。でも考えているようで、何も頭に残らない。この感覚、バイクに乗っている時に似ている。

サウナに行けないのでその代わりにと思って始めたランニング。まだ走っている時の気持ちよさはわからないけれど、さすがに1時間走った後のお風呂は気持ちいいし、夕食は美味しく感じられる。

犬の気持ち

たまに職場に行くものの、基本的にはこのような生活を続けていると飼い犬になったような気持がする。

一日中家にいて、狭い場所をウロウロ。一番の楽しみは何といっても食べること。特に運動はしなくても頭を使っていると不思議とお腹は減ってくる。脳のエネルギー消費量の大きさを実感できる。

12時ごろになると台所から昼食の匂いがしてくる。普段はシンプルな弁当を持って仕事に行っているので、この感覚は新鮮である。美味しく昼食を食べて午後の仕事をしていると、今度は体を動かしたくなってくる。そしてランニングの時間。自由に外出できるときはあまり走りたいとは思わないが、1日1度の外出だと走るのも苦にならない。

僕は犬を飼ったことはないけれど、今まで見てきた犬のイメージ、餌をガツガツ食べたり、勇み足での散歩を考えると、自分の今の気持ちは犬と重なっていると思ってしまう。

雨の降る日であっても散歩している犬と飼い主を見る。「こんな日ぐらい家にいてもいいのに」と思ってしまうが、今の自分の生活を考えると雨の日の散歩も理解できる。実際に雨が降ってランニングできない日、そんな日が2日続けば体が気持ち悪い。食事の味も変わってくるのがわかる。

できることなら雨が降っていても外で運動をしたい。1日中家にいるとそんな気持ちになる。多分飼い犬も同じように感じていることだろう。

「犬を飼って散歩に連れて行っていい気分にさせてあげたい」今まで思ってもみなかった感情が湧き上がっている自分に気が付いた。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。