童くんとのライン
私には、オーストラリア人の友人がいる。彼の名前は童くん。当然本名はオーストラリア風の名前なのであるが、漢字を当て字にしたときに「童」が最初に来るのでそういう風に呼んでいる。
童君は昨年11月まで5年間日本にいて、その後オーストラリアに帰国した。彼とはとてもいい関係であったので、帰国後も頻繁にラインでやり取りをしている。
先日もラインで「GWどうする」という話題になった。オーストラリアにはGWは無いので、童君が私に聞いてきたのだ。
「今年は子どもたちが新しい生活を始めたのでゆっくりする」という内容を英語で送った。私の二人の息子はそれぞれ新しい環境で新学期を迎えている。コロナは収まりつつあるが、ゆっくりと体と心を休めるのがよいと思ったのだ。
童君とGWのやり取りをするうちに、彼とかつて「5月病」について話し合ったことを思い出した。「オーストラリアには5月病的なものがない。いったい何なんだ」そう質問する彼に、私は「一体何なのだろう」と考えながら答えた。
確かに、日本には5月病が存在する。GWが終わると新入社員にうつの傾向が出始めたり、不登校の子どもが増えたりするという。5月病だけではない。9月1日は、1年で子どもの自殺数が一番多い日だという。
何年間も就活をして入った会社に行きたくなくなったり、子どもが死を選ぼうとしたりする状況は、何かが間違っているし、世の中が病んでいると思う。
日本という社会は同調圧力が強く、年齢が1歳異なるだけで先輩後輩の関係性が求められる。そんな中で常に周りにアンテナを張り、ストレスフルな状況の中で自分の行動や言動を制御することは、相当に心身を疲労させることだと思う。
特に入学や入社などで4月に環境が変わった人間にとって、最初の1ヵ月間は緊張の連続で、知らないうちに疲労が蓄積していることだろう。そんな中でゴールデンウィークを迎える。
土日の配置がいいと4月29日から5月8日の10日間が2勤8休という状態になる。上手く有給をとることができれば10連休も可能だ。緊張の4月を経験した後、10日休むと会社や学校に行く足が鈍ってしまう。
新たな場所で楽しく過ごしている人ならまだいいであろう。問題は、4月からの居場所に「こんなはずじゃなかった」と思っている人だろう。さえない上司に退屈な仕事、嫌な先輩にむずかしい勉強、心の調整が苦手な人が5月病になりやすいことは十分わかる。
楽しみを見つける
この時期にこれほど休日が重なっていなかったら5月病になることもないと思うのだが、こればかりは日本の年度と政府の方針がそうなのだから仕方がない。
いろいろと考えるうちに、私自身がGWにそれほど期待をしていないことに気がついた。
今はGWの2日目、今私の頭にあることは休日の過ごし方ではない。私はもっと先のことを考えている。むしろGWは速く終わってほしいとさえ思っている。私はGWが終わり5月8日を迎えることが待ち遠しい。
そうだ、5月病の克服の仕方がわかった。私のように、GWの先に楽しみを見つけることができれば5月病になっている暇がない。
5月8日は大相撲5月場所の初日。今、私はこの日を早く迎えたくてたまらない。昨日届いた50型の大型テレビ。この画面に力士たちが映し出されると思うと、ワクワクしてくる。
GWはどこへ行っても混んでいる。それなら家でゆっくりするほうがよいが、基本的に私はそれができない性格。このブログで何度も書いたように、時間があれば”生産的”なことをしないと気が済まない性格をしている。
だから、休日があっても結局は語学や読書、靴の手入れや家の片付けなどで1日が終わってしまう。それは、休日が何日あろうと変わらない。それならば、大相撲開催中の2週間、サウナや馴染みの立ち飲みでテレビを見る方が喜びが大きい。
相撲を好きになってまだ5年ほどであるが、これほどの楽しみを私に与えてくれるとは思わなかった。現に、今の気持ちは「ゴールデンウィークよりも5月場所」なのだ。
東の関脇となった若隆景が大関への足掛かりをつかめるのか。照ノ富士の膝の調子が回復して横綱の相撲を再び見せてくれるのか。前頭筆頭になった高安が先場所の悔しさを晴らしてくれるのか。見どころが尽きない。
最近は十両の取り組みも見るようになった。
先場所調子のよかった北の若。新十両の栃丸。将来が期待される熱海富士。そして何より私の好きな炎鵬。十両はテレビでダイジェスト版をしていないので、GWは働いてもいいから、代わりにその次の週の午後を休みにしてBS放送を見させてほしい。
本当に大相撲の世界は素晴らしく、相撲好きは5月病になっている暇などない。
相撲好きの子どもが増えれば…
大相撲は1年に6回、奇数月の中二週間で開催される。考えてみればこれは絶妙なタイミングであることが分かる。日本の学校制度を考えると、それは特に児童・生徒・学生にとって都合がいい。子どもたちのやる気を引き出してくれる。
1月場所
クリスマス、大晦日、お正月とビックイベントが続く。恋人、友達、親戚と楽しいときをすごした後、1がつ8日前後に3学期が始まる。気持ちが下がるが、相撲好きは1月場所が待っている。年末年始のイベントと1月場所が陸続きになって楽しめる。
3月場所
学年の終わりが近づくころ3月場所が開催される。1年間頑張った生徒たちに対するご褒美のような場所である。場所が終わると春休みがやってくる。懸命に相撲を取る力士の姿は、4月から新しい生活が始まる生徒たちの背中を押してくれる。
5月場所
上で述べた通りである。5月病になっている場合ではない。
7月場所
中学・高校生は1学期期末テストと前後してやってくる。相撲好きなら7月場所があると思って頑張ることができる。そして、それが終わるころ夏休みがやってくる。場所の余韻に浸りながら長い休みを迎える。喜びが倍になる。
9月場所
8月終わりから「あと何日で学校かあ」と子どもたちがため息をつき始める。ここでも人生は簿記だなと感じる。休みが長い分、それが終わる時の悲しみも大きくなる。しかし、学校が始まって2週間もすれば9月場所が開催される。それを楽しみに学校へ行ける。
11月場所
2学期は1年の中で一番長い。GWのような休みもないし、明るい時間も目に見えて短くなっていく。単調で憂鬱になりがちな時期である。そんな2学期にアクセントをつけるのが11月場所である。11月場所が終われば冬休みが見えてくる。頑張れそうだ。
ざっと各場所と学校との関係を書いてみた。もちろん、私の主観が大きく入った解釈である。しかし、もし私が今の状態のまま生徒になったとしたら、上に書いたように感じるに違いない。
自分が学生の頃は、相撲に全くの興味を持っていなかった。今の子どもたちも似たようなものであろう。しかし、大相撲が自分の人生のワクワクの1つの源になった今、子どもたちが相撲を好きになってくれたらなあと空想するのである。特に5月病の話や、子どもの自殺といった辛いニュースを聞くと、余計にその思いは強くなる。
世の中は現実の切り取り方を少し変えれば、まったく異なる世界が浮かび上がってくる。それは、モヤモヤを抱えて悩み続けた私が、こうして文章を書くことで、今救われていることが示していることである。
相撲じゃダメなのなら、何か別のものでもいい。毎日の人生の少し先に何か楽しみがあれば、それだけで今日の景色が変わってくる。それが見つからないのなら、そんな自分を少し離れたところから描写してみればいい。
相撲が好きになりかけていた私を本当に相撲好きにしたのは、間違いなく文章を書くことだった。
5月病は克服できる。