Made In U.S.A.
休日ですが空は雨模様で、外に出る気になりません。晴れていたらバイクでぶらぶらするか、近くの風呂屋へ歩いて行くのも良いのですが、今日は家でじっとしているのがよさそうです。
この前25年以上前に買ったライダースジャケットにミズノのストロングオイルを塗って柔らかくする話をブログに書きましたが、そういえば同じ時期に買って今も使い続けている衣類があることを思い出しました。
それはライダースとよく一緒に身に付けるジーンズです。製品名はリーバイス510と517です。これらを購入した大学生の頃はいつもジーンズを履いていました。ブランドはリーバイスでした。「ジーンズはアメリカ製が一番でその代表はリーバイス」という根拠のない思い込みからそうしていました。
今では岡山県の児島や井原、広島県の福山など日本でもお洒落でクオリティーの高い素敵なジーンズのメーカーが数多くあります。これらの地域では何十年も前からデニムを生産し続けています。しかし、わたくしはそんなことも知らずに、リーバイスこそがジーンズだと思い買い続けてきました。
一番多く履いたのは501と517。特に517はブーツを履いた時、脚がスッキリと見えるため好んで履きました。少し長めにカットしてもらい、ブーツの踵で裾を踏みながら履くため、その部分がすぐにダメになります。当時はそれがカッコいいと思っていました。501は色違いを数本持っていました。ボタンフライはトイレの時少し面倒ですが、用をたした後、少し便器から離れてボタンをとめていくのもカッコいいと思っていました。若さってややこしいですね。
その2種類以外には510と610を持っていました。アメ横に遊びに行った時まとめてこの2本買ったことを覚えています。買った理由はそれらがアメリカ製だったからです。
リーバイスもグローバル化の波に乗り、世界各地の人件費の安い国々で生産を始めていました。細くなっていくMade in U.S.A.製品の流通に訳も分からず焦りを感じた私は、買うつもりのなかった2本のジーンズを購入したのです。
510は時々はいたものの、ポテッとして股上の深いシルエットの610は私に合わなく、タンスの肥やしになっていました。
以上のように書いてみると、私が今まではいてきたジーンズはほぼすべてアメリカ製のリーバイスということになります。山ほどジーンズがある中で、変な思い込みが強すぎたのでしょう。今から思えば、若い時期はもっと柔軟にいろいろと試してみるのがよいと思います。
時は過ぎて
仕事を始めてからはジーンズを履く機会がめっきりと減りました。はかないと痛まないので、新しいものはほとんど買わなくなりました。買うにしても、昔のような変なこだわりは無く、ジーンズ専門メーカー以外の製品を買うこともあります。
あれほどリーバイスばかりはいていた大学生の頃から時は過ぎて、当時から残っているジーンズは3本となりました。そのうち自分の中で不人気の610は実家の車庫につるされています。実家で農作業を手伝う時の専用ジーンズですが、状態はすごくいいです。
手元にあるのは先に書いた517と510です。改めて手に持ってみると、随分とくたびれています。それほど頻繁に洗った記憶はありません。しかし20数年の歳月が繊維を弱くしているのでしょう。太もものヒゲの部分を中心に大きめの穴が開いています。
実はこの2本のジーンズ、今年の2月に「コンマリ流片づけ」を行った時、捨てるべきかどうか迷いました。コンマリ流のキモは実際に手に持って衣類の声を聞いてみることです。
一年前なら廃棄していたと思います。しかし私は去年の夏からブログを書き始めました。身の丈に合った幸福を感じるために。そしてそのブログの中に大学時代の思い出がたまに出てきます。これらのジーンズはその時代にもろにリンクしています。「これからも一緒にいよう」そんな声が聞こえてきました。ブログを始めていなかったら聞こえなかった声です。
ずっと付き合っていくか
私はジーンズの穴をふさぐことにしました。
掃除、洗濯、料理、妻のレベルからは程遠いものの、私は家事全般が大好きで今までやってきました。大抵のことは行う自信はありますが、唯一裁縫だけはできません。
シャツやジャケットのボタンが1つとれただけでもお手上げです。妻に頭を下げてお願いをします。玉止めとか玉結びとか、うまくいった記憶がありません。
そんな私がジーンズの穴を塞ごうとしているのです。ブログのせいか先月のモヤモヤMAXのせいか、我ながら大した心境の変化だと思います。
妻から裁縫セット一式と、接着芯、あて布を受け取ります。
接着芯を穴の大きさを考えながら適当な大きさに切り、裏返したジーンズの穴周辺に当てます。アイロンを上から当てて芯と生地とを接着させます。このままでは膝の曲げ伸ばしによってすぐに元通りになりそうなので、布を芯地と重ねるようにして当てていきます。ネットで検索した修理方法です。接着芯を使うのもあて布をするのも人生で初めての経験です。
温度のせいか接着芯が薄いのか、しっかりと密着しているようには思えないのですが、私にはどうすることもできません。次のプロセスへと進みます。
接着芯よりわずかに大きめに切った布を芯地の上に待ち針で止めて針と糸で縫っていきます。妻の指導で玉結びを行い、後はひたすらあて布の端をまつり縫いしていきます。なるべく糸を表の生地に出さないように注意を払って針をコントロールしようとするのですが、思うように進んでくれません。
不均等な力といい加減な待ち針止めのせいかあて布と芯地がズレていきます。ステッチの間隔もバラバラで近くで見ると不細工です。そして何より、ジーンズの表面に不揃いの糸が顔を出しているではありませんか。
生まれて初めてのジーンズ修理でうまくいくはずはありません。しかしジーンズが少し不細工になったところで、私の人生がどうこう変わることも無いと感じました。そう思ったら気が楽になります。
こうやって休日の時間を何時間も使い、悪戦苦闘しながら古びたジーンズを修理の名のもとにさらに不細工にしていく、これも結構楽しいものです。所さんが言っていた「うまくいかないから楽しい」とか「失敗を楽しむ」というのはこういうことなのでしょう。
最後の玉止めはどうしてもうまくいきません。したがってその部分から糸がほどけてくる可能性は高いでしょう。本当の意味で穴がふさがっているのかも、何度かはいて洗ってみなくてはわかりません。
作業を始めて約2時間の後、何とか完成しましたが、見た目は修理する前とほとんど変わりません。開いていた穴がくっついたな、という感じです。
ここまで来たら、これからもこの2本のジーンズをずっとはき続けていこうという気持ちになってきます。修理のやり方をもっと勉強して、手を入れ続けてやりたいです。
ライダースジャケットにしてもジーンズにしても、古くなっても味がある服って素敵です。古いものを大切にするとどうして気分がよくなるのでしょうか。「人間も年をとり古臭くなる。そんな存在を”味がある”という風に大切に思ってほしい」無意識のうちに自分の行く末を自分の所有物に重ね合わせているのかもしれません。