日曜日のルーティーン
昨年6月、ふとした妻との会話の中から明石焼きに興味を持ちました。
6,7月は二人で毎週のように明石に通い、いろいろな店の明石焼き(地元では玉子焼きと呼ばれている)を味わいました。
とてもシンプルな料理なのですが、それだけに出汁と卵とタコの味がダイレクトに反映されて、なかなか奥が深いのです。それに熱々の明石焼きはビールによく合います。
私たちは「いつか明石焼きを食べながらビールが飲める店を出したい」という夢を持つようになりました。
そんな時、明石市内で唯一、つまり世界でただ一人明石焼き用焼き鍋を手打ちで作る職人の話を知りました。「ヤスフク明石焼き工房」の安福さんです。この辺りのいきさつは、過去に何度かこのブログに書きました。
とにかく、私はこの職人さんの作った家庭用の焼き鍋を手に入れ、以来毎週のように家で明石焼きを焼き続けています。
上の写真は、焼き鍋の10か月間の色の変化を示しています。全体的に鍋が黒い焦げで覆われています。ただ、お店で見るものとは異なり、その黒なりにムラがあります。まだまだ、焼く回数が足りないということでしょうか。
私は、週に一度、以下のようなレシピで明石焼きを作ります。
- 出汁 1100cc
- じん粉 85g
- 薄力粉 45g
- 卵 5個(約250g)
- 塩 小さじ半分
- ゆでダコ 適当
以上が6回分、つまり私の焼き器は穴が9個あるため、明石焼き9×6=54個分の分量です。
出汁は、鰹節と昆布でとることもあれば、市販の液体出汁を使うこともあります。そのため塩の量は、だしの種類によって適当に調整します。
鰹節と昆布でとる出汁は、和食の基本だけあって納得するものを作るのは非常に難しいです。私の中には「昆布の香りがタコのうま味を引き立てる」というイメージがあるのですが、そのような出汁は作れません。
子どもたちの反応は、液体出汁の方がよいです。味がしっかりとついているためでしょうか。そういう私も、ブラインドテストをされたら、液体出汁で作った方を選んでしまいそうです。
あともう一つ、タコの質によって味が大きく変わることが分かりました。理想的には明石産のマダコですが、これはブランドだけあって値段が張ります。明石の魚の棚に行くことがあれば、お得な物を買って帰ります。
やっと気が付いた
材料やその分量も大切なのですが、それと同様に焼き方もこの料理の味と見栄えに大きく影響をしてきます。
作り始めた去年の夏は、まともに焼くことすらできませんでした。ホットプレートで作るタコ焼きには自信があった私でしたが、熱伝導の良い銅鍋は火の通る感覚が全く違います。
それに、使う粉は固まりにくい「じん粉」です。出汁に溶いてもしゃばしゃばした感じで、焼き上った後も柔らかく、爪楊枝で刺して持ち上げることはできません。
火加減と、焼き鍋の上の生地に神経を集中させます。具体的な作業を箇条書きしてみます。
- 生地を鍋に入れる
- 火をつけて穴にタコを入れる
- 菜箸で穴からはみ出た生地を穴に寄せる
- 下の部分が固まってきたら菜箸で回転させる
- 全体が焼ければ鍋に上げ板をつけてひっくり返す
このようなプロセスが、約5分の間に行われます。特に大切なのは4番目の「菜箸で回転させる」部分で、この作業の良し悪しで硬さと見た目が決まります。
私の鍋は9個焼きですが、その一つを回転させる間にも他の部分に熱が入っていきます。手際の良さと、どれをひっくり返すかの見極めが必要になります。
明石市のある有名店は、そこも安福さんの鍋を使っているのですが、20個焼きの鍋で焼いています。私には、その鍋で焦がさずに焼く自信がありません。
単にひっくり返すだけの作業ですが、これも技術が必要です。何しろ生地が固まりにくいため、底は焦げそうでも上は液体のままなのです。その上、鍋がしっかりとできていないと、上げ板に返したとき、明石焼きが綺麗に鍋からはがれてくれません。
ここで言う「鍋ができる」というのは、油にしっかりとなじんで、表面が均一に黒い焦げの層に覆われてることです。
上の写真は、今までで一番ひどかった時の様子です。この時は、出汁と粉の分量を間違えました。上げ板にのせた無残な形をした明石焼き見た時は、情けなさと申し訳なさで涙が出そうになりました。
試行錯誤を続けながら明石焼きを焼いている私ですが、最近あるコツに気が付きました。
それは半面焼けた明石焼きを返す時、正反対に回転させないということです。具体的に言うと、明石焼きを球体と見た時に180度回転させるのではなく、100~120度辺りで一度止めておくということです。
しばらくして、下の面に火が通れば、今度はこれを180度回転させます。この時点でほとんど全体に火が通っているので、返した後は短時間で火をとめます。
以前の焼き方: 半面焼く⇒180度回転
最近の焼き方: 半面焼く⇒120度回転⇒180度回転
真ん中に一度120度の回転を入れるだけですが、このおかげで2つのメリットが生まれます。
1つ目は最初に焼いた場所と重複する部分に程よい焦げ目がつきます。
2つめは、最も鍋とくっつきやすい窪みの縁の部分に、返した後の生地がつかなくなります。
これからどこへ向かうのか
実際にこの焼き方を始めてからは、上げ板に明石焼きをのせた時、ほとんど鍋に生地がくっついて残ることが無くなりました。焼き上った後の見た目も良くなりました。
こんな単純なことに気が付くために、私はゆうに100枚以上の明石焼きを焼かなくてはなりませんでした。
半年前もそうでした。カセットコンロ式「炉端大将」で、焼き上がりの遅さと場所によるムラに首をかしげながら焼いていましたが、普通のガスコンロの火力で焼くと問題なく焼けました。これに気付くまでにも数か月かかりました。
今まで何度かお店の方が焼く姿を見ました。しかし、見て頭で分かったつもりになることと、自分で行って体で理解することとは全く異なります。
熱くなった銅製の焼き鍋から油が発する匂い、生地がブクブクと沸騰する感じ、そして返したときに見える焼き目と、鍋肌に半生の生地が触れて発するジュッという音。
明石焼きを焼いていると、神経が研ぎ澄まされ、感覚器官の感度が上る気がします。
焼き方だけでも、まだまだ改善する余地があります。加えて、出汁の取り方、混ぜ合わせるタイミング、タコの選び方や切り方、アナゴなど他の具をどう合わせるかなど、考えれば考えるほど複雑になってきます。
これからも焼き続ける中で、それら一つ一つに向き合って行き、私なりの答えを探していこうと思っています。
さらに、最終的に向かう場所、つまり店の開業へ向けてどのように準備を積み上げていくのか、これが最大の課題であり同時にワクワクの源でもあります。
「現在の仕事」「通訳案内士」「イタリア語の継続」「サイドFIRE」「田舎での農業」これらのキーワードと「明石焼き」がどのようにつながっていくのか、私の頭の中ではまだ明確には見えてません。
しかし私の直感は「通訳案内士やイタリア語の試験を受験しながらも、明石焼きの修行をしなさい」と私に告げています。
心身共に健康な状態で、前を向いて毎日を過ごしていればこれらは必ずつながる、その思いは確信に変わろうとしています。