暑い夏が過ぎて
近年では夏に30度を超すことが珍しくなくなりました。天気予報で「明日の最高気温は28度」などど聞くと「すずしいな」と思うくらいです。
もちろん、バイクに乗っているとそのあたりは何度でも関係なく、夏に長袖を着て乗っている限り、股火鉢で汗はダラダラ、フルフェイスのあごはヌルヌル、家に帰ればパンツ一枚になりながらエアコンの効いた部屋へ一直線という状況は変わりません。
子供のころは8月と9月は着る服が変わっていたと思うのですが、今では基本的に9月も夏と一緒です。仕事以外では半袖短パン雪駄姿で過ごしました。
感覚的には、9月は8月とあまり変わりませんが、それでも下旬になってくると長袖のシャツが登場します。バイクに乗るのにいいシーズンです。
夏の間は「1~2週間に1度は動かしておかないとマシンの調子がおかしくなる」そういう義務感で乗っていたバイクですが、この時期になると心地よい風を受けながら少し遠くまで行ってみたい、そういう積極的な気持ちで乗りたくなります。
「仕事を辞めて、または休職してバイクでゆっくりと日本中旅してまわりたいな」心地よい遠出をした後はこんなことを考えたりします。そこを一歩踏み出す勇気は今のところありませんが、その気になれば可能なことです。逆に、日本の歴史が2千数百年とすると、この50年間を除いてどの時代でも不可能な夢です。平和で豊かな現代に生まれ、整った道を自由に馬に乗る感覚で移動できる。「今しないでいつできるの?」と思いますし、実際に自由に旅をしながら生きている人もいます。
仕事を辞めて、バイクにまたがって思い切って旅に出る。旅が終わったら終わったで何とかなるのかもしれません。子供の教育とか老後の資産とか言いますが、本当に65歳まで同じ場所で働き続けないとだめなのか、もっと柔軟に考えれば方法はあるのではないのか。
バイクと旅のことを考えると、このように今の生活が客観視され、心が自由になってモヤモヤも少し遠ざかります。「今年仕事を辞めて…」はありませんが、遠くない未来に実現できるかどうか、お金の計算だけでも今年始めようかと思っています。
不便な乗り物
そもそもどうして人はバイクに乗りたがるのでしょうか。自分で乗りながら時々不思議な気分になります。
以前にも書きましたが、6月下旬から9月にかけて、半袖半ズボンが快適な季節は、長袖長ズボンのバイクでは、結構どころかうんざりするほど不快な環境を味わいます。特に8月はバイクに乗らなくても、外に出ること自体嫌な日が多いです。そんな日に、全身を覆い直射日光を受けながら走るのです。信号で止まれば、上からの日差しに加えて、エンジン、アスファルト、前後左右の車から容赦ない熱+排ガスの攻撃。
走行中は風を受けてまだましなのですが、信号で止まるたびに汗だらだらで「冬はいいよな。汗かかないし」と、半年後には絶対に思わないことを思ったりします。
そして、半年経ち季節は冬。11月から3月までは冬用のグローブを使います。生地が厚くて指先がゴアテックになっていて風を通しません。見た感じスキー用のグローブのようです。冬でも寒くないグローブですが、バイクに乗る時、話は全く別です。
走り始めて10分ほどで手は冷たくなり、30分も乗れば指の色は真っ白、感覚がなくなります。バイクを降りてコンビニに入りホットコーヒーを買い、飲むことなくずっと両手で持ち続けます。または、サイレンサーを火傷をしない程度に触ります。「寒っ、熱っ、寒っ、熱っ」を繰り返しながら。傍から見ると滑稽な光景ですが、やっている方は切羽詰まっています。
手だけではありません。
ライダースジャケットの下に長袖3枚、下半身はズボン下に靴下2重を通常装備に加えます。それでもしばらく走ると、手先同様足先も感覚が無くなり、寒さで膝がガクガクと震えてくることもあります。
一度高速を走行中、膝の震えが止まらなくなり、危険を感じでパーキングに止まったことがあります。周囲に見える暖房の効いた車では、薄手の服を着た人々が快適に過ごしています。中にはサンダル姿でパーキングへ降りてくる人もいます。こちらは上下頭指先まで目いっぱい着こんでも、寒さで惨めに体を震わせています。
「寒いよう。俺はなんでバイクに乗っているのだろう。夏は温かくていいよな。」と、半年後には脳裏に1ミリも浮かんでこない言葉が太くはっきりと実感を持って立ち上がってきます。
人間はおかしなものです。いや、おかしいのはバイク乗りなのか、私なのか。
暑さ寒さだけではなく…
結局、季節的に、何も心煩わされずにバイクに乗ることができるのは、一年の内3月中旬~6月、9月後半から11月中旬ぐらいです。だいたい半分ってところですか。上記以外でも、短距離を1時間程度乗るくらいなら問題ありませんが、数百キロにわたるツーリングだとそれなりの覚悟と快適さを求める心にあきらめが必要になります。
「俺、なんでバイクに乗っているんだろう?」思わず自問してしまうのは暑さ寒さに関することだけではありません。
運転中に前方に感じる暗い影。やがてヘルメットのシールドにポツ、ポツ、ポツ。「ヤバい、来た!どうしよう?」
乗る前には慎重に天気予報をチェックします。できることなら、降らない日に長距離を楽しみ、降らない確率が高いけどひょっとしたらの日にはレインウェアを持参で短距離を。そして降ることがわかっていればバイクには乗りません。
最近ではコンピュータの性能が良いのか天気予報はかなり当たりますが、まれに確率10%だった雨に遭遇してしまう時があります。
都市部なら、コンビニとか駅とか雨宿りする場所を見つけることができます。一度神戸市内で雨が降り始めた時は、国道2号線、途中から43号線の上を走る阪神高速神戸線高架を屋根代わりにして、合羽を着ることなく移動したことがあります。あの時は雨だったけど気分良かったです。高架が終わる若宮インターまででしたが。
しかし、ほとんどの場合、予想外の雨との遭遇は悲惨な結果に終わります。今年は、4月下旬兵庫県北部でやられました。晴れ、降水確率10%。快適に走ってました。乗り換えたばかりの新車、信号のほとんどない道、素晴らしい景色。誰が10%の確率を信用できたでしょうか?
だから突然ヒョウが激しく降りだしたとき、前方のトンネルやバス停は次々と雨具を持たないバイク乗りたちで埋まっていきました。
私は、偶然見つけた公衆トイレへ避難。ヒョウに打ち付けられる目の前の新車をどうしようもなく眺めながら、スマホを取り出して雨雲を見ると、晴れ渡る兵庫県北部の中で、ポツンと真っ赤な点が一つ。
ヒョウは雨に変わり、しばらくすると嘘のように止み、また元の空。トイレ到着まで数分間の攻撃で、ビチョビチョの手袋、グチョグチョのジーンズとブーツ。そして何より跳ね返りの泥交じりの雨水で汚れた我が新車。
冷えた体を温めようと立ち寄ったコンビニにの駐車場には、同じ目にあった数人のバイク乗りがそれぞれの愛車をタオルで拭いていました。
「あなたもやられましたか?」
1人が声をかけてきてくれました。
「10%の確率にやられました。しかも季節外れのヒョウで。」
コンビニの前で震えながらコーヒーを飲んでいると全身ずぶ濡れの人々が次々とバイクを走らせていきます。その中の何人かは、今日ツーリングに行ったおかげで風邪をひくでしょう。
どうしてこの人たちはバイクに乗るのでしょうか?そして私を含めて。
暑さ、寒さ、雨、バイクに乗ることを不快にすることはまだ他にあります。自動車に乗れば味わわ無くても済む不快さです。
今はバイクにとっていい季節なので、それらを意識することはあまりありません。しかし、丁度いい季節は本当に短いのです。嫌が上でも「なんで俺バイクに乗ってるんだろう」と思う季節はもうすぐです。その辺のところをまたブログに書いていきたいと思います。