オヤジにも明日がある

バイトに向かいながら

私は車を運転する時ラジオを聴いていることが多い。私の中でラジオを聴くということはNHKのAM放送を聞くこと。それも第2放送の方が圧倒的に多い。この日も自宅前に止めた車の中で朝の語学放送を流していた。

「歌聴かせて!」長男は車に乗り込むなり私に言い、スマホからQUEENを流し始めた。私はラジオを止めた。長男は喉の調子を気にしながらキーを合わせようとしている。

彼は県外の大学へ通っているが、この時は春休みで帰省中、地元のバイト先へ私が送っている途中だった。バイトが終わるとライブハウスで高校時代の仲間とイベント、そこで何曲か歌うというのだ。片道15分の道中、彼は歌の練習を続けた。大学生活について話をしようと思っていた私は少し拍子抜けした。

曲が「ボヘミアンラプソディ」になった。これなら私も前半部分の歌詞を覚えている。何度聞いても心に染みる、何かを考えずにはいられない歌詞である。彼に合わせて私も下手くそな歌を歌う。バイト先で彼を下ろして思った。

「こんな日が来るんだ」

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乗らないツーリングクラブ

三年ぶりの

「今年は三年ぶりにモーターサイクルショーが開催されますよ。行きませんか?」

Kさんからグループラインを通じてやってきました。日時は3月17日~19日の三日間。18日なら都合がつきそうでしたので、そのように返信すると他のメンバーたちも合わせてくれて、私たちはその日インテックス大阪へ行くことになりました。

このツーリングクラブのメンバーとは、行きつけの立ち飲みで知り合いました。お酒を飲みながら話をするうちに、バイク好きだとわかった常連が声を掛け合って結成されました。いわば、酒好きのバイク乗りたちであります。

外は一日一日春の装いを深めております。バイク乗りにとって凍える寒さから解放される嬉しい季節であります。本来ならモーターサイクルショーにもバイクで行くのが当然と思われるところです。しかし「大阪で立ち飲みのハシゴをするのもいいですね」ということで、あっさり電車で行くことになりました。

「まあ、ツーリングクラブとしてもモーターサイクルショーに行くということで面目は立つわけで…」そのような言い訳を言い合いながら地下鉄中央線のコスモスクエアで下車しました。

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6冊目

人生の主人公

「私は毎朝鏡の前に立ち自分に問い続けた『今日が人生で最後の日なら今から行おうとしていることをしたいであろうか』。その答えがNoの日が続けば、何かを変える必要があるということだった」

スティーブ・ジョブスがスタンフォード大学で行ったスピーチの有名な一節です。彼の言葉を味わいながら私は思いました。当たり前のことですが今まで考えなかったことです。

「私の人生の主人公は私自身である。そして私は自分の好きなことをして生きられる時代と環境にある」

ありがたい話です。私はこのような時代に、この豊かな国に生を受けたのです。しかも家族や仕事や健康に恵まれています。モヤモヤし続けている場合ではありません。私自身が主人公のこの人生を最高のものにしたいと思いました。そのような経緯で私は「私デスノート」を書き始めました。

これは漫画「デスノート」にヒントを得たものです。漫画ではデスノートに名前を書かれた人間に死が訪れます。記述されたことが現実となるノートです。

「私デスノート」も同様なことが起こることを願って作っています。私の人生の主人公は「私デス」。そして「私デスノート」に書かれた事は現実化します。そのようなコンセプトです。

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二つできた

春を告げる魚

私の周りに住む人たちは、この時期になるとソワソワし始めます。皆の関心は次のことになります。

1.今年はいつ解禁になるのか 2.値段はいくらになるのか 3.自分の手に入るのか

これらの三つの関心は「イカナゴ」という魚に対して持たれるものです。この魚は佃煮にして年中売られています。しかし、漁が行われるのは一年間のうち2月終わりから3月にかけてのわずかな期間です。

この時期に漁が行われる理由は、人々が求めているのがイカナゴの幼魚であるシンコだからです。シンコは一日単位で成長していきます。佃煮にするのに適した大きさを目指して人々はイカナゴを手に入れようとするのです。

このイカナゴ、かつては大量に取れる安価な魚でしたが、この10年間で大きく漁獲量を減らしました。主な原因は「水温の上昇」だとか「海がきれいになりすぎただから」とか言われてます。

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今頃どこへ

まただ…

あまりによく目にする表現なので「自分の方が間違っているのでは」と思いそうになります。私の疑問は、天国や極楽と呼ばれる場所、つまり人間がこの世を旅立った後たどり着く世界は、この世界からどのくらい遠くにあるのかということです。

それが存在するのかしないのか、存在するとすればどこにあるのか、そんなことは誰にも分かりません。少なくとも「体験した」という意味で知る人はいません。

しかし人間は、そういう場所が存在する、つまり「死者がある」という概念の上に成り立っている生き物です。そして、その死者がいるであろう場所の遠さについてある程度共通の認識を持って生きてきました。

私が苦しいのは、その共通認識が揺らいでいるのを感じるからなのです。外ならぬ、人間にとって一番大切な生死に関する分野で。

1月31日にある新聞社がネットにニュースを載せていました。そこに書かれた記事を読み、私は暗い気持ちになりました。亡くなったのは私の好きなミュージシャンでした。悲しいことですが、それだけでは暗くはなりません。私をそういう気持ちにさせたのは、その扱われ方でした。

鮎川誠氏の訃報記事の最後は次のようにしめられていました。

「今ごろ天国でシーナさんと再会し、娘たちの活躍を祈っているにちがいない」

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危険な香り

健康のため?

私が働き出したころ、土曜日が来るのが楽しみでした。もちろん仕事が休みになるということもありますが、もう一つの理由はこの日がお酒を飲める日だからです。

「お酒を飲める日?」このように書くと「いつ飲んでもいいんじゃないの」と突っ込まれそうですが、当時の私は飲み会など特別なことがない限りは平日は飲まないと決めていたのです。

今から思えばずいぶんと牧歌的です。週に5日飲まなくてもお酒に関しては十分満足できていたのです。独身で、脂っこいものを食べ、タバコを吸い、砂糖の入った缶コーヒーをよく飲んでいた健康によくない生活でしたが、それでも肝臓は休まっていたと思います。

今は野菜や魚が大好きで、タバコも吸わず、缶コーヒーを始めとする清涼飲料水はほぼ口にしません。ここだけ見ると健康的な生活をしているように思えます。しかし、これらに変わって私の生活にアルコールが入り込んできました。

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便利で清潔

アフリカ

最近、おもしろい人物がいることを知った。ヨシダナギさんという女性で、職業は写真家である。ネットで名前を検索すると変換候補に「ボカシ無し画像」と出てくる。このことからわかることが二つある。

一つ目は、世の中に彼女の裸を見たいと思っている人物が多くいるということ、もう一つは実際にそういった写真が存在しているといることである。

「ボカシ無し画像」の方はともかく、私が興味を持ったのは彼女が一般的な女性とは異なることに興味を持ち、それを追い求める姿が人を引き付けていることである。

彼女が最初に興味を持ったものはアフリカの「マサイ族」である。幼少のころテレビで見てその美しさに魅了され、以来彼女はアフリカの少数民族に興味を持ちつづける。

この時点で私の周りには彼女のような女性はいない。モデルや芸能人に憧れる人は普通にいるが、マサイ族を見て美しいと思う感性はこの国の基準では”変わって”いる。

その美貌にも関わらず、少女から成人するまでの彼女の人生は順風満帆とはいかなかった。彼女について書かれているものを読むと、むしろつらい出来事の方が多かったようだ。

そんな中、彼女は23歳の時、憧れ続けたアフリカを訪問する。そして、そこで出会った人々の美しさを伝えたいと思い、写真を撮り始める。その過程で彼女は現地の人と同じものを食べ、同じメイクをし、同じ衣装を着た。

もちろん、部族によってはほとんど何も身につけないものもある。彼女の名前を検索するときの「ボカシ無し画像」という変換候補は、そういう文脈からのワードである。

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GG-SHOCK

生き物

「こんなことでコロナの菌が防げるんかいな」

ある年長の方が職場でたまに出す言葉です。

「コロナを引き起こすのはウィルスであって細菌ではありません」

その度に私のおせっかいが出そうになるのですが、グッと我慢します。その方にとってウィルスや細菌という分類はどうでもいいことに思えるからです。「とにかく目に見えないほど小さくて体に何らかの不調を引き起こすもの」、それが「菌」という言葉でこの世のそれ以外のものから切り取られているのだと思います。

生物学的に見るとウィルスと細菌は別のものとして区別されます。細菌は細胞があり自ら分裂して増えることができますが、ウィルスは細菌よりはるかに小さく、ただの遺伝情報に過ぎず、細胞の中に入り込まないと増殖することができません。

「遺伝情報」っていったい何なのでしょうか。ウィルスは「生き物」といえるのでしょうか。しかし生き物をコントロールするための緻密な仕組みを持っています。そんなものがこの瞬間も、私たちの中に無数にへばりついているのです。考えだしたら頭がおかしくなりそうです。

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381で375

サイコロを振る

JR西日本は、少しでも会社に入るキャッシュフローを上げたいのだと、ここ三年間感じている。コロナで落ち込んだ需要を何とか取り戻そうと、ありえないほどお得な企画切符を販売してきた。この一月に販売された「サイコロきっぷ」もそんな中の一つだ。

クレジットカードで五千円を払いウェブ上でサイコロを振り、目が出た都市までの特急列車利用での往復切符が手に入るのだ。行先は「出雲市・米子」「加賀温泉・福井」「山口・湯田温泉」そして「博多」。行先によって目の出る確率は異なり一番レアな博多は12分の1である。

鉄ヲタとして、または地理好きとして、どこに行こうが面白そうでお得である。土日の一泊で遊んで来ようとサイコロを振ったが、思わぬ落とし穴が待っていた。

これだけお得な切符なので当然いろいろな制約もあって当然なのだが、そのことに入金・サイコロを振った後で気がついたのだ。一番の制約は「必ず特急の指定席を取り移動すること」であった。指定席は発券後は変更不可で、自由席に乗ることも許されない。

私は「出雲市・米子」の目を出し、希望の土日の特急券を取ろうとして唖然とした。席がないのだ。コロナ禍で、多くの空いた特急列車を見てきたので、「特急やくも」も余裕で予約できると思っていたのだ。

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ロバな私

休日の朝

私はこのブログを土曜の朝に更新することが多いです。平日、お酒を飲まなかった日に書きためていたものを、土曜の朝早起きをして少し訂正して投稿、というのが普通の流れです。

土曜の朝早く起きるのは、大体9時ごろに仕事へ向かうのでその前に記事をチェックしたいからです。仕事の無い土曜は午前中かけて記事を書き投稿します。

私の仕事は週休二日が建前ですが、土曜日は3~4時間仕事をすることも多々あります。仕事が終われば、イタリア語の教室に行き、書店で本を買い、ウォーキングをして家に帰るというのがパターンです。たまに銭湯でサウナに入ったり、立ち飲みに寄ることもあります。なかなか充実しています。

日曜日は、たいていは一日自由です。そして日曜日の起床時間は、私が気分良く一日を、いやその週を過ごせるかの分かれ目になります。朝起きて一番にすることは決まっています。アイロンがけです。

若い頃から私はアイロンがけが好きで、特にシャツにあてるときに幸せを感じます。蟹を食べる時、黙々と蟹の身を殻から掘り出して集め、一気に食べる時幸せを感じると思います。あれと同様で、一週間分たまった私と息子のシャツを前に、次々とアイロンをかけると私は幸せな気持ちになるのです。

無秩序な状態に秩序を取り戻す行為、それがアイロンがけです。熱と蒸気と共にきれいな面が生み出されるのを見ると、自分が秩序を回復させたヒーローに思えてきます。家事の中でもこればかりは妻に譲ることができません。

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