ブーム二つ

取れなかった

平日に行けそうで行けないのが大相撲大阪場所である。私の住む場所から近い街での開催なので、必ず1日は行きたい。授業は2月末で終わり、卒業式を挟んで学年末考査が始まる。

それも大相撲が始まる第二日曜までにはかたがつくので、あとは平日に時間が作れそうに思えるのだがうまくいかない。毎年同じことを思いつつ調整がつかず、結局土日祝日のどこかに大阪場所に行くことになる。

横綱大の里の誕生やウクライナ出身の安青錦の活躍もあってか、最近の大相撲は満員御礼が続いておりチケットが取りにくくなった。夏休み中の名古屋場所は平日に休みをとって行くことができるが、今回の大阪場所も候補日は土日のみとなった。

「今回も厳しいかもしれない」

ファンクラブのグレードを関脇コースに上げて抽選回数を一回増やそうかと思ったが、三万円払うのが惜しくて、結局小結コースのまま第2回ファンクラブ抽選から参戦することにした。

ファンクラブとチケットぴあ、第3希望まで書いて2回抽選を受ければどこかでひかかるだろう、一抹の不安を覚えながらも結果を待つがいずれも完敗。私たちに残されたのは早い者勝ちの一般販売しかなくなった。

迎えた2月7日の午前9時50分、私たち夫婦は2台のパソコンと3台の電話を手元にして10時の販売開始を待った。パソコンは購入の一つ前の画面、電話はリダイヤルを設定。

10時と同時に「アクセス集中してます」画面と「話し中」のトーン。その状況は30分間変わらず、私たちが画面で次に目にしたものは「完売しました」の文字。

「こんなに近くに住んでいるのに大阪場所が見られないなんて…。相撲ブームそんなにすごいのか」

私たちは相撲好きになって以来初めて体験する現実を渋々受け入れた。

妻の発見

予定していた土日がぽっかりと空いてしまった。「神戸サウナに行ってそこで相撲観戦するか」と思っていたが、妻からある提案があった。

「大阪から高山まで直通する特急があるの知ってる?」

「特急ひだ」のことだ。大阪から東海道在来線を岐阜まで走り、そこで名古屋からの車両と連結して高山を目指す。今では珍しい、鉄道会社を超えて走る所要時間4時間超の列車だ。

妻はこの列車に乗って高山に行ってみたいと言うのだ。彼女は私のような鉄道オタクではないが、列車の旅が好きで時々このような列車を探してくる。列車で過ごす時間は苦痛ではなく、それ自体に価値があると思える点で彼女は私と感性が同じである。

私に異論はない。私たちは週末を高山で過ごすことになった。大阪発の「ひだ」で行って「ひだ」で大阪へ戻る旅である。宿は妻が探し、列車は私が取ることになった。

時刻表の巻末、列車編成表を見ると大阪発の「ひだ」は指定席と自由席がそれぞれ1両ずつである。大都会の複々線区間を2両編成のディーゼルカーが走る姿を想像すると面白い。私は発売日に指定券を取り、旅行の日を待った。

国際都市

長大な大阪駅11番線の京都寄りにちょこっと停車する短いひだ号に乗り込んだ。車両はHC85系、2022年にデビューしたハイブリット型の気動車だ。エンジンで発電し、モーターを回す。減速時にはモーターが発電機となり、バッテリーが充電される。

私にとって初めて乗る車両。エンジンとモーター音、加減速の具合、飛騨川に沿って走る景色、それらに気を配っていると4時間は瞬く間に過ぎ去り、私たちは高山へ到着した。私も妻もここで下車するのは初めてのことである。

インバウンドで高山が人気の観光地になっていることは聞いていた。2018年2月、私は富山から高山本線を岐阜まで乗り通す機会があった。

「末端区間なので自由席でも余裕であろう」と思っていたが、意外にも大きな荷物を持った外国人が十数名乗ってきて座席は8割方埋まった。彼らは高山や下呂で下車し、同じようにそこでも乗客があった。私はこんな山奥の街に外国人が訪問することに驚いた。

今回見た外国人の数は8年前の比ではなかった。列車のドアが開くと高山駅1番ホームは人で溢れた。半分くらいは外国人であろうか。大きなスーツケースを手に、ホームのエレベーターを待つ人々が列をなしている。

駅横のバスターミナルもさまざまな人種が行き交っている。案内所に入ると係員のおばさんが流暢な英語で説明をしている。十種類ほどの言語で書かれた観光地図が並べられている。その中のイタリア語で書かれたものを一部手にした。滅多にないことだからだ。

山間に開けた平地の小さな街、私たちは二日間ここの主だった場所を歩き回った。町中に張り巡らされた水路、木の板に墨で書かれた昔ながらの看板、深い色合いの町屋。これだけ一昔前の日本を感じられる街は珍しい。

その街のどこへ行っても見られる外国人の姿。その数は私の予想を遥かに超えていた。視覚だけではない。英語はもとより中国語、ハングル語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、次から次へと耳に入ってくる。英語以外はじゃべれないがこれらの言葉の聞き分けはできる。

中にはイタリア語を話す人々とも出会った。こっそりついて行って聞き耳をたてる。他の場所なら通報されそうな行為だが、人が溢れているので気にならない。

インバウンドは京都や奈良だけではなく、このような都会から遠く離れた場所にまで来ていることを実感した。相撲ブームでチケットが取れなかったおかげで、日本ブームを知ることができた。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。