令和八年九月場所

重圧1

表彰式で君が代が演奏されると、見る見る間に表情が崩れていった。横綱が泣いている。私はその姿を見て、大相撲の中でこの地位が持つ重さを感じた。

力士なら誰でも憧れる地位。掴むまでは眩しい光を発する。手に入れた瞬間、その光にとてつもない質量があることに気気付く。逃げ出したい、でも逃げ出せない。土俵を去ることだけが出口である。

四日目に高安に敗れたものの順調に白星を重ねる大の里。「勝ち続ける横綱が帰ってきて嬉しい」そう思いながら私は観戦した。

終盤になり黒星二つで安青錦に並ばれた。優勝決定戦の可能性はなくなり、千秋楽に勝った方が賜盃というスリリングな展開。こうなったら大の里は分が悪いのではないかと思った。

「追われるものより追うほうが強い」仁義なき戦いで菅原文太演じる広能昌三が言ったセリフ。追う安青錦は一度転落した谷を這い上がってきた男だ。

安青錦を序の口の頃から応援していた私であるが、この時ばかりは大の里に勝ってほしかった。強い横綱を頂点にした、秩序のある力の世界。その力の安定感があるからこそ、番狂せが面白くなるのだ。

重圧2

秋場所中ずっと豊昇龍のことを考えていた。

「彼は今どんな気分で過ごしているのだろうか」

私の中で豊昇龍はずっとヒール役だった。「メンチ切るな」とか「もっと謙虚になれ」など思っていた。そんな彼に対して今は同情する気持ちの方が強い。

霧島は妻が好きな力士の一人であるが、彼女は霧島が横綱になることを望んでいない。自分の好きな力士が豊昇龍のように苦しむ姿を見たくないという。

横綱になってまだ一度も優勝がない。出場すれば前半に思わぬところで星を落とすことが多い。負け越しを避ければよい大関とは異なり、横綱が最初の週に3敗でもすると休場の文字が現れる。

この一年半、彼はずっと苦しそうに見える。自分の選んだ道とはいえ、今の立場の重圧は予想できなかったものであろう。

解説の舞の海さんが言っていた。来場所も休んで、完全に体を復活させてから帰ってきてほしい。私もそう思う。九州場所に出場し惨めな結果になれば、来年早々にも引退の話が出てくるであろう。

時間をかけて体を治し、初場所で強い横綱を見せてほしい。

重圧3

今場所大関とりが注目されている力士が熱海富士であった。優勝こそしていないが、今年に入り二度も決定戦を経験し、三役としての力も十分についてきた。

「当たってまわしを取られたら、今熱海富士に勝てる力士はいないんじゃないですか」解説でもそう熱く語られていた。現在興隆を極める伊勢ヶ濱部屋を代表する存在である。

十日目を終わって8勝2敗、残り1敗で大関、それがダメでも2勝すれば来場所へ繋がる期待の中でまさかの四連敗。

せめて千秋楽では藤の川勝って悪い流れを止めたいところ。仕切りを重ねる二人を写すカメラ、ふと画像が花道奥へと切り替わる。そこにいたのは元横綱照ノ富士の伊勢ヶ濱親方。

こう言っては悪いが、愛想を振り撒きたい時でもそう見えない顔をしている。その表情を見て思った。「熱海富士は、取り組みの後あそこを通って帰るのか」。プレッシャーがかかる。

熱海富士、立ち遅れたものの藤の川を土俵際まで押し込む。そこで藤の川に体をかわされ突き落としをくらう。小回りのきく藤の川が慣性の大きい熱海富士を利用した感じ。

大関候補が8勝7敗で秋場所を終えた。がっかりして引き返す花道の先にはモニターを見つめる伊勢ヶ濱親方。熱海富士が挨拶をする。親方は微動だにせずにモニターを凝視。怒りのオーラがこちらまで伝わってきた。

横で騒がしい

生前、私の祖母がよくテレビで見ていた競技は相撲とバレーボール。画面の中に感情移入して、大声を上げながらの観戦であった。実家に帰り、祖母の部屋からあの声援が聞こえてくると、元気が伝わってきて嬉しかったものだ。

今場所、同じようなことが我が家のリビングルームでも起こった。

「いっちー、いっちー、キャァー、引いたらだめ!」

「もう、そろそろ勝たないとダメ。何があったの?悩みがあるの?」

一山本、伯の富士、王鵬、今場所前半これらの力士はなかなか勝てなかった。そして、この三人は私の妻が特に応援している力士である。

二人で夕食をとりながら、録画しておいた取り組みを見るのだが、横で妻が騒がしい秋場所であった。

最終的には7勝したものの、私はここ二場所の王鵬が心配である。なんだか気迫が伝わってこない。心に闇を抱えているように見える。私は「恋の病にかかってるんだろう」と周りに言っている。実際にそれで済めば良いのだが。

兄弟

絶好調の藤の川、その弟である碇潟が幕下上位に番付を上げてきた。来年早々にも、新たな関取兄弟が誕生する可能性が出てきた。

琴櫻と琴勝峰はよく似ているため兄弟だと思っていたが、そうではなく、幕下にいる琴手計が琴勝峰の弟。それを知ったのが四年前。その琴手計は琴栄峰となり、兄以上に土俵を沸かしている。

若隆景が二場所連続の休場。左足の大きな傷を見て「そんなに大ごとだったのか」と震えてしまった。来場所復活できても十両から。若元春と揃って幕内で見られる日を待つ。

朝紅龍のまわしの色は「紅」であるが、弟の朝翠龍は「翠」ではない。どうしてだろうと勝手に思っている。この小柄の兄弟の活躍も大相撲の見どころとなった。

さて、ここまで有名どころについて書いてきたが、我が兵庫県にも注目すべき兄弟力士がいる。

山響部屋の家島と家の島兄弟で、共に幕下下位にいる。姫路の南にある漁業の島、家島出身であることは名前からすぐにわかる。貴景勝の引退で関取が不在となった兵庫県を、この兄弟の出世で盛り上げて欲しいと考えるのだ。ただ、十両昇進の際にはもう少しひねった四股名を・・と思うのは私だけだろうか。

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投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。