令和五年十一月場所

毎年のことではあるが、千秋楽結びの一番の立行司の声「この一番を持ちまして」を聞くと体の奥底から寂しさが湧き上がってくる。大相撲は奇数月に開催されるわけだから場所と場所との間隔は一定である。しかし今年の勝負はこれで最後という思いが私をそのような気持ちにさせるのだ。

相変わらず忙しくて今場所も思うように見ることができなかったが、いつものように気がついたことを書き記してみたい。

テーマ曲

X-JapanのアルバムBlue Bloodは彼らをスターに押し上げたアルバムであるが、その中に彼らのタイトル曲とも言える「X」という曲がある。16ビートのバスドラムが連打される激しいリズムに合わせて歌われる「X」というサビの部分でファンは胸の前で両手をクロスさせて「X」の形を作り「エックス!」と叫んでジャンプをする。

一山本が土俵に上がる時、私の脳内にはこの曲と共にX-Japanのファンが現れる。私も腕を交差させ彼に向かって「エックス」とつぶやく。

私は一山本関の四股名が好きである。秀逸な命名だと思う。苗字に「一」を付けただけであるが響きがよく、想像力を掻き立たされる。現にテレビを見ていると「一」の部分に白星の数を入れた横断幕を持って応援していたファンがいた。そんな彼を私は「X山本」と呼んで応援する。

今場所は「十一山本」まで星を伸ばした。敢闘賞も受賞した。私は一山本が勝った次の日に職場の相撲好きの同僚に「七山本になりましたねえ」などと声をかけるのが楽しみだった。

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3浪目突入

春は遠し

今年のイタリア語検定2級の結果が発表された。予想通り1次試験を突破することはできなかった。10月1日の午前10時20分、私は頭の中が真っ白になっていた。リスニングの最初の問題、話の内容を3つの絵から選ぶ問題が4つとも何を言っているのか理解できなかったのだ。

昨年のリスニング問題はほぼ満点だった。過去問を解いても、この最初の問題は余裕で解けていた。しかし、それが今回全く頭に入ってこなかったのだ。私は焦った。しかし最初からあきらめるわけにはいかない。深呼吸をして残りの問題に集中した。それでも、リスニングの手ごたえは薄かった。今まで行った過去問のどれよりもできないと思った。

イタリア語検定協会の「マイページ」に各パートの結果が表示される。意外なことに自信のなかったリスニングパートは合格基準点に達していた。今まで合格点に達したことのなかった作文も今回はギリギリ12点を取れていた。問題は筆記試験であった。あと2点だった。去年は作文が2点足りていなかった。点数だけ見ると、私は1年間成長していないことになる。

この4年間を振り返ってみる。

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不思議な気持ち

風に吹かれながら

サウナ室で10分間体を熱し、もう勘弁してくれというところで部屋を出て水風呂の中で「ううう」とか「ヒューっ」といった声にならない声を上げて露天スペースへ移動する。幸いなことに数少ないリクライニング式のイスが空いている。腰を下ろして体の水分を拭き、ゆっくりとイスを倒して仰向けになる。

ぼーっと空を眺めているとアドレナリンが放出されて視界が揺れる感じがする。今日は風が強い日。灰色の雲が頭上を次から次へと絶え間なく流れていく。手も足も、眼球さえも動かすことなくじっとしたまま一点をぼんやりと眺めていると、動きのある雲が生き物のように見える。心臓が全身に血液を送ろうと鼓動するのが感じられる。

私と雲の間にもう一つ動きが加わった。

どこからともなく一羽の大きな鷹が翼を広げて私の視界の中に入ってきた。翼は広げたままでほとんど動かさない。それでいて海の方からの風にのり、悠々とした大きな動きを見せる。きっとあれだけ見事に風を制御できれば気持ちいいであろう。

空の食物連鎖の頂点に立つ存在。風に乗りながら、その鋭い目で地上をはい回る獲物を探っているのだろう。「かっこいいなあ」ぼんやりとまどろむ私の目を覚まさせたのは、鷹から飛び出したもう一つの動きのある物体であった。

「うぁ、なんか出た!」

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すんなりといかない

自由時間

私は自分の自由時間の多くを語学学習に使っています。これは半分は楽しみでやっていますが、残りは義務感のような感情につき動かされてやっています。

学習している語学は英語とイタリア語です。かつては台湾語も少し行っていましたが、とてもじゃないけど時間が確保できないため現在は中止しています。

イタリア語は検定で2級を取るまでは続けようと考えています。実用性はほぼありませんが、近いうちにイタリアを旅したいとは思っています。

英語は仕事で使うために必要です。とは言ってもそれほど難しい英語を教えているわけではありません。今までのストックがあるので、英語の勉強をサボっても仕事に支障はないと思われますが、英語学習を止めることはできません。

これは私に精神的な縛りがかかっているからです。その縛りとは「英語に対する劣等感」です。

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何をしてるのやら

海鮮丼を求めて

バイクとの付き合いは季節や天気との付き合いになります。空調の整う密閉された空間で移動できる自動車と違って、バイクは体が常にむき出しになっており身につけるものや風防によって環境を整えます。

今年の夏は異常に熱く、とてもバイクに乗って遠出する気分にはなりませんでした。住んでいる場所が標高の高い山間部ならよいでしょうが、私は都市部に住んでおり、どこへ出るにしてもしばらく信号に立ちどまりながら移動するしかありません。

こうなったらバイクを楽しむよりも、電車で遊びに行ってビールでも飲んだほうがいいという気分になります。「バイクが好き」と言いながら私はその程度のバイク乗りです。私は真夏にも電動ファン付きの空調服を着たライダーを見ました。彼ら、彼女らは本物だと思います。

さて、限りなくニセモノに近いバイク乗りである私たちツーリングクラブ(行きつけの立ち飲みのバイク好きの常連)ですが、暑さがおさまるとバイクに乗ってどこかへ行こうかという話が出始めます。いつものようにカウンターで酒を飲みながらああだこうだとバイクの話が弾みます。

結論を言うと、11月下旬に1泊2日のツーリングが控えているので今回は日帰りで海鮮丼を食べに行くという話になりました。場所は前回「乗らないツーリング」の初日に訪問した京都府南丹市にあるお店です。山の中の街にあるラーメンがメインの店なのですが、意外と海鮮丼が美味しかったのです。

「それでは軽く昼飯を食べに行きますか」

私たちはカウンターで話をまとめて解散しました。

予定の日、兵庫県から京都府にかけての降水確率は10%でした。私たちは天候に関して結構慎重で、30%を超えると「やっぱり車で行ったほうがいいかも…」と誰ともなく言い出します。しかし、この降水確率は完璧です。私は雨具も防寒具も持たずに待ち合わせ場所である神戸市北区のコンビニへとバイクを走らせました。

今回参加したのはRさんとWさんと私の3人。

「今日は秋晴れで最高の天気ですね」

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天国はアル

平日の有給休暇

働き始めてからずっと「これができる仕事ならなあ」と思うことがある。それは平日に有給休暇を取ること。簡単なことに思えるだろうが、私の仕事でそれは「誰かに自分の授業を押し付けること」になる。

授業というものは単体で成り立つものではなく、ベテランの教師になればなるほど長期のスパンで構成を考えて、その中に伏線を張ってゆく。

「ここは泳がせるところ」「少ししめるところ」「答えを言わずにあえて考えさせるところ」「1ヶ月前に張った伏線を回収することこ」

1年という流れの中で1回の授業に振り回されずに、大きな中で教えるべきことを教える、それが良い授業であると思って今までやってきた。

そんな中、自分の流れを知らない教師が入ってきて教えると、その後でクラスの様子が変わってしまうことがあるのだ。かつて、長期研修で学校を留守にした時、私はそのことを経験した。だからなるべく自分の授業に穴を開けたくないと思う。

それに、それに私の代わりに別の教師が言ったとしても、その人の仕事が別の部分で軽減されるわけではない。そんな思いを私は他人にさせたくない。

だからこの二十数年間で私が、長期休業中を除く平日に有給休暇を取ったのはインフルエンザに感染した時と、祖母が亡くなった時だけである。

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「今」を重ねる

試験の後で

昼過ぎにイタリア語検定が終わり、会場のビルのエレベーターでスマホの電源を入れるとLINEにメッセージが入っていた。

「ビルの前に待ってる ベンツ 黒 ナンバーは・・・」

エレベーターを降りて小走りに建物の出口へ向かう。自動ドアが開くと前の道にメッセージ通りの車が止まっている。近づくと運転席に懐かしい顔が見える。RB先輩だ。

「お久しぶりです」と助手席のドアを開ける。少し歳をとったが相変わらずかっこいい。LEONのモデルになってもおかしくない。

「会社に行って飲むか」

私たちは北浜から先輩の会社へと向かった。

私は大学時代音楽系のサークルに所属しており、RB先輩とはそこで知り合った。音楽はもとより生き方に関しても憧れていた先輩で、私は卒業後も数年に一回程度であるが会いにいかせてただいていた。

ただ、最近は訪問する期間が空いていた。神戸と大阪、距離はそれほど離れているわけではない。年賀状にも「今年こそは」と毎年のように書いていた。それにも関わらず、私は「会いましょう」という踏ん切りがつかなかった。

仕事に追われ、二つの語学に追われ、読書に追われ、私は自分を取り巻くものに常に追い立てられ「時間がない、時間がない」と言っていた。しかし、それは私の言い訳に過ぎない。

私は自分で自分に縛りを作り、それを行うことを選択した。その縛りが私にとって重要なことであるかどうかはわからない。そうやって縛りを作って新しいことをやらない言い訳を持つことはある意味楽な生き方である。

同じことを続けながら違った結果を求めることは愚かなこと、私に必要なのは情熱を持って直感に従った行動をすることだ。今回私を動かしてくれたのはある映画であった。

今年のお盆、ネットサーフィンをしていた私の目にその映画のタイトルは飛び込んできた。

「シーナ&ロケッツ 鮎川誠〜ロックと家族の絆〜」

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最大の発明

中間テスト

束になったマークカードをカードリーダーにセットし、パソコンの画面の読み取りボタンをクリックします。調子がいい時はものの20秒で1クラス分のマークカードを読み取ることができます。

読み取った後はダブルマークや空欄の確認など細かい作業を手動で行い、それが終わると印刷ボタンを押します。プリンターから次から次へと個人の成績表が印刷されます。

いつもの考査後の作業ですが、私はプリンターの横に立ちながら同じことを考えています。

「どうしてこんなことができるのだろう」

大学生の時、初めてワープロを買いました。確か「オアシス」という名前だったと思います。文章が完成すると紙をセットし印刷ボタンを押します。取り付けられた感熱式のインクリボンが紙の上を左右に動き、一行ずつ私の書いた文章が目の前の白い紙に現れていきます。

私はこの時も「どうしてこんなに速く文字が打てるのだろう」と感心しました。

現在のプリンターの速度はその当時のワープロの比ではありません。ワープロの場合、目の前で仕組みを確認することができました。しかし、このプリンターでは何が起こっているのか想像することもできません。インクリボンがワープロの数十倍の速度で動いているわけではないことは、なんとなくわかります。

しかし、どうしてカードリーダーで読ませた情報と、パソコン上で計算された結果と、それを個人ごとに振り分けて知らせる紙が、このように素早く連携して私の目の前に次から次へと現れるのかは、全くもって不思議な現象であります。

そして現代に生きる私たちはそのような不思議な現象を「当然のもの」として考えて毎日を過ごしています。パソコンや印刷機だけではありません。私たちの身の回りにあるたいていのものはそうです。

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沼の始まり

怒りと悲しみと

「もう分からへんわ!」

その子は大きな声で言い放った。顔は怒っていたが目には涙が浮かんでいた。当時私は教師になって間もなかった。元々英語の教師になるつもりはなかった。生まれ育った場所で中学校の社会科教師をしながら生きていこうと考え、そのような道を歩んで来た。

しかし人生は面白い。私はあることをきっかけに生まれ育った場所を離れ、高校で英語を教えることになった。手探りであれやこれやと考えながら授業をしていたが、テキストの内容はそれほどレベルの高いものではなかった。

私は傲慢であった。自分が読んで簡単だと思うことを相手に教えたとしても、同様に理解できるはずはない。「どうしてこんなことが理解できないのだろう」心の中でそう思いながら教壇に立っていた。

そんな私の心をその生徒は見透かしていたのだろう。「わからへんわ」という言葉は英語に対してだけではなく自分に対して、つまり「どうしてあなたのような人間が教えているのかわからない」と言われているような気がした。

悲しそうな目をしていた。悔しさと悲しさと理解できない自分を責める気持ち、それらが混ざり合ったような目であった。

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令和五年九月場所

大相撲を好きになって以来私は夏の終わりに寂しさを感じなくなりました。仕事柄夏休みの終わりを悲しむ子供達とよく接します。私はそういう子供たちに冗談半分で「夏休みが終わっても9月に入ったらすぐに楽しいことあるやん」と声をかけます。

「何ですか」と聞かれたら「そんなん九月場所決まってるがな」と答える私を子供達は「あっ、また相撲の話ね」という半分冷めた目で見ます。

私は夏休みの終わりは寂しくない分、9月場所の終わりはなんだか明日から始業式のような気分になります。周りが二学期に慣れてきた頃に私はその始まりを恐れるような気持ちになるのです。相撲好きも一長一短あります。ただ二学期は12月まで続きますが大相撲は一月半後に次の場所が開かれます。そう思うと頑張れる気持ちになります。

いつもに増してじっくり見ることはできませんでしたが、今場所も気がついたり感じたことをとりとめもなく綴ります。

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