検定&サウナ

穏やかな朝

もう何回この会場に通ったのでしょうか。大阪環状線の天満駅から徒歩3分の「天満研修センター」は、私が知っている限りずっと大阪でのイタリア語検定の会場です。いろいろな大きさの会議室が集まったこのビルは各検定の会場として使われているようで、1階のモニターにはそれらの会場案内が示されています。

私は去年と同じ7階の部屋へ入室して試験の開始を待っていました。すごく穏やかな気持ちでした。今までこんな気持ちで検定を迎えたことはありません。

心穏やかであった理由は「受かっても受からなくても、どちらにも楽しみがある」と思うことができたからです。どういうことでしょうか。

私はイタリア語の勉強をかれこれ20年以上行ってきました。途中でやめたり、再開したりを繰り返しながらの20年です。もともと勉強する必要性はありませんでした。「したほうがいい」という直感にしたがった行動でした。

しかし、一旦始めるとこれは泥沼のようなものでした。語学は継続してなんぼ、使ってみてなんぼです。私は日々忙しく働くなかで、学習時間を確保することに苦労しました。イタリア語となると、日常的に使う機会もほとんどありませんでした。

そんななかで何度も挫折しそうになりました。「何のために私はこんな無駄なことに時間と労力をかけているのだ」繰り返し思いました。「いっそやめてしまえば、どんなに自由な時間が増えるのだろう」本気でそう思いました。

実際に私は何度も何度も学習することを止めました。しかし、年度が変わり新しいNHKの語学シリーズが始まると、思わずイタリア語講座のテキストを買って再開します。今まで積み上げてきたものを捨てる勇気がなくて「今度こそは」と思いながらラジオを聞きます。

そんな止めた・始めたを繰り返しながら、何度かこの天満研修センターでイタリア語検定を受けてきました。準2級まで進みましたが、何度か落ちたこともあります。

出来が悪かった日、私は自分に対して心の中で罵声を浴びせながら会場を後にしました。「お前はどれだけ努力をしたというのだ。こんなに時間と労力を使いながらこのざまか?」思うように力の伸びない自分を否定していました。

気持ちに変化に気がついたのは昨年の2級受験でした。リスニングの試験を終えた時点で、私は自分の不合格を確信しました。全くイタリア語が頭に入ってこなかったのです。作文の字数も明らかに不足していました。

いつもなら自分を責めながらの帰り道ですが、この時は「これから来年のこの試験までどう過ごそうか」を考えなが梅田まで歩いて行きました。家に帰ると「私デスノート」に「これから新たにやること」と「やめること」を書き出しました。

そこから1年間、私は学習を続けました。その結果、過去問を解くと、何とか2級の合格点に近づくことができました。夏が過ぎるころには「今年ダメでも来年は合格できる」という確信を持てるようになりました。

そうなると不思議なもので2級に合格してしまうのがもったいないような気持ちになってきます。私は、根っからの貧乏性であると感じさせられる瞬間です。

このような流れを経て、私は10月2日、天満研修センターでイタリア語検定2級を受験してきました。トイレに行きたくならないように水分を控えめに取り、脳のエネルギーになるように、30分前からチョコレートを少しずつ食べました。

2時間はあっという間に過ぎてゆきました。私は「結果はどちらであってもよい」と、穏やかな心持でした。

天満から梅田へ

2時間を集中力を維持させると、さすがにお腹が減ります。そんなとき、この天満の街ほど素晴らしい場所はめったにありません。安くておいしいお店が商店街とその周りにひしめき合っています。大阪には庶民的な商店街が多いのですが、天神橋筋商店街はその筆頭になります。

私は昼定食もやっている居酒屋へ入り、瓶ビールとおかず数品を頼み、お昼ご飯にしました。1人カウンターでビールを口にしながらこの1年間を振り返ります。

ブログのおかげで、だいぶ心のコリはほぐれてきています。「しなければならない」と半分義務感でやっていたイタリア語も、「私がやろうと決めたからやる」と思えるようになってきました。かつては「こんな文章がわかる日がくるのだろうか」と思っていた、HNKラジオイタリア語講座応用編も、今ではプログラムによっては物足りなく感じるほどになりました。

いろいろと苦しいことや上手くいかないこともありますが、こうやって1つの節目を終えてゆっくりビールを飲んでいると「それもアリかな」と思えてくるから不思議です。私はもう1本ビールを追加したくなりましたが、ここは我慢です。せっかく大阪までやってきたのですから、この後は大東洋で自分にご褒美です。

去年と同じ中崎町の商店街を歩きながら、大阪でも有数のサウナ「大東洋」へ向かいます。不思議なのは、もうサウナーになって長いのに、去年同じ発想になかったことです。まだまだ、心が固くて自分にご褒美を与えることに抵抗があったのでしょうか。

天満と梅田の間少し梅田寄りに大東洋はあります。1階で受付を済まし、エレベーターで5階へと上がります。サウナ専用施設に来るのは7月のウェルビー以来です。

年に一度の検定も終わりました。今日の午後はゆっくりとサウナでリフレッシュです。私は洗い場で体と頭を洗い、浴槽で少し温まってからサウナ室へと向かいます。

ここには2つのメインとなるサウナ室があります。フィンランドサウナとロッキーサウナです。どちらもサウナストーンを使い、ロウリュができるタイプですが、ロッキーの方が室温が高めです。大東洋初サウナは「フィンランド」にしました。

日曜とあってか、昼間でもここは数多くのサウナー達で賑わっています。大阪、いや日本でも屈指のサウナだけあって、サウナハット持参の人も多くいます。何をもって”上級”を定義するのかわかりませんが、皆さん上級者に見えます。

フィンランドサウナにはテレビモニターはありますが、番組は放送されていません。その代わり無音でフィンランドの景色が流れてきます。どの施設であっても大きめのサウナ室では、必ずと言っていいほどテレビ番組が流されているので、これは新鮮に感じられます。

たまには無音の世界で汗をかくのもいいものです。時々、誰かが「ロウリュいいですか」と尋ね、柄杓でアロマ水をストーブにかけていきます。ここでは5分間間を開けたのち、柄杓に3杯までかけるのがルールになっているようです。

ロウリュで発汗が進み、頃合いを見計らって外に出ます。フィンランドサウナの隣には水風呂が二つ並んでいます。迷わず冷たいほうに入りますが、そこは18度とは思えないほどの冷えっぷりで、30秒ほどで外に出てしまいました。体感的には13度ぐらいでしたが、浴槽のタイルが冷たそうな色だったので視覚の効果もあったのかもしれません。

このあと、ロッキーサウナに入り、休憩室で昼寝の後、再び両方のサウナを味わいました。せっかくなので熱波師によるアウフグースも受けたかったのですが、時間前にはサウナ室はサウナー達であふれかっており、またの機会にすることにしました。

ゆったりとした気分でリクライニングチェアーに横たわっていると、大都会の真ん中にいることを忘れる心地よさです。手軽な価格でこのような気分になれることは他にありません。サウナーでよかったなあと思います。

夢のような時間が終わり、私は梅田の喧騒の中を大阪駅へ向かい、JRに乗って帰宅の途につきました。

一年ぶりに発音する

検定から3日後、イタリア語検定協会のホームページに1次試験の解答が掲載されました。自己採点してみるとリスニングは9割、筆記は7割弱の得点率でした。どちらも去年の基準点は超えています。作文は、150語以上は書けたのですが、これはどれぐらいとれているのかわかりません。

去年よりも明らかに成績はよいと思いますが、私にとっては合格・不合格はそれほど気になりません。検定の次の日も、イタリア語の勉強を行いました。テキストを見る余裕がない日であっても、ポッドキャストで歩きながら音声を聴くことはできます。

今やイタリア語に触れることは、生活の一部になっています。残念なことは、実際にイタリア語を話す相手に向かって使う機会がないことですが、まあ、それもいつか来ると信じています。とにかくニュートラルな気持ちで、検定など受験しなかったかのような気持ちで、できるときにできる勉強をするのみです。

イタリア語学習に関していろいろと苦しんできましたが、今は心穏やかにとらえることができています。2級レベルに近づいたという感覚、教室に通い始めて勉強する仲間ができたこと、ブログで心の調整が上手くいっていること、複数の要因が上手く合わさっての結果だと思います。

今は、11月上旬の1次結果の発表を待ちながらも、淡々と、そして楽しみながらイタリア語と付き合っていきたいと思います。

検定の次の日、私は気がついたら1冊のテキストを手にしていました。「ニューエキスプレス 台湾語」です。1年以上前に「とりあえずやめよう」と決意した台湾語を久しぶりに発音してみました。

「もしイタリア語検定2級に合格できたら…」頭のなかにいろいろな思いが浮かび上がってきます。

英語もまだまだ勉強したい。イタリア語も、2級ではやっと実用の入り口に立ったに過ぎない。その他フィンランド語、インドネシア語、ベトナム語、やっとことはないけど死ぬまでに少しは勉強してみたい言葉があります。

そして、一度始めたものの中断した台湾語。大好きな台湾でありますが、昨今の情勢を見るといつまで安心して訪問できるのか不安でもあります。「勉強するのは今かもしれない」そんなことを考えたりします。

しかし、あまり欲を出し過ぎるとまた「~しなければならない」と「できていない」の間で自分を責めたくなる生活が待っています。やりたいことに対して圧倒的に時間が足りない現実が私の前に横たわっています。

ではどうする?お酒をやめるか?いっそのこと仕事をやめて時間を作るか?

毎朝英語とイタリア語と台湾をを1時間ずつ勉強して午前を終える。昼から何か好きなことをして過ごし、夕方にサウナに行って帰宅する。そんな生活をすることは無理なのだろうかと想像してみます。

きっと今までの私なら「無理に決まっている」と考える前に思ったでしょう。しかし、このような一日の過ごし方は日曜の私の過ごし方に似ています。毎日日曜の過ごし方をするのは難しくても、それを週に二日、三日と増やしていく方法はあると思います。私の目指しているサイドFIREはその手助けになると思います。

これから台湾語を含めて外国語とどう向き合っていくのか、イタリア語検定の一次試験の結果を待ちながら、しばらく考えていきます。欲を出せばきりがありませんが、こうして外国語を学べる環境にあることに感謝しながら毎日過ごしていきます。

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。