曲がりながら萌える(前編)

好きな駅

私の住んでいる神戸は海と山に囲まれた地形をしています。とてもいい街であると思いますが、鉄道好きの私としては今ひとつJRの駅に面白みがありません。

これは神戸の地形に起因します。細長い市街地に鉄道が敷かれているため、路線の形が単純であり、駅の配線もポイントがなく線路にホームが寄り添うだけのいわゆる停車場型が続きます。

鉄道好きにとって好ましい駅とはこの「停車場型」とは反対で、多数のポイントによって複雑に線路が絡み合いホームを多数有する駅になります。残念ながら神戸市内にこのようなJRの駅がないのです。

兵庫県でこれに一番当てはまる駅は姫路駅になります。私は西へ向かう新快速電車が市川の鉄橋を渡ると興奮し始めます。高架に上がり北側から播但線がカーブを描いて寄り添ってきます。上下本線は多数の引き上げ線がを挟み、複雑なポイントを渡り列車はホームへと入ります。

先ほど走ってきた下り本線にはホームがなく通過線となっています。上り線には通過線がありません。南側には新幹線の駅舎が見えます。かつて地上駅時代には離れていましたが、現在は在来線と一体となっています。山陽線の二本のホームには有名なまねき食品の駅そばの店舗があります。北側には播但線と姫新線のホームがあります。一本のホームを4つに分けて使っています。

ホーム、ポイント、引き上げ線、通過線、駅施設、姫路駅は神戸市の駅に比べてこれらが圧倒的集積していて、そこが鉄道好きが興奮するポイントなのです。この姫路駅、まだまだ描写したいのですが、この辺でやめておきます。今日の主役ではないからです。

今日の主役はもっと西にあります。姫路駅も大好きです。しかし、姫路駅で「興奮」する私は、この駅を前にした時「萌え狂い」しそうになります。夏の終盤、私は18きっぷを手に妻と二人で岡山へ向かいました。

まくり差し

「この先カーブした鉄橋で吉井川を渡るで。すごいと思わん?」

「知ってるよ。ここを通るたびに聞かされるから」

妻との会話です。私は自分の言ったことを何度も忘れているようです。和気で片上鉄道の廃線跡を確認すると、次は吉井川橋梁です。斜めに一直線のコンクリート橋で渡る新幹線も良いのですが、やはり私は内田百閒も記したこの曲がったガーター橋がたまらなくかっこいいと思うのです。

相生で別れた新幹線と上道の手前で寄り添います。建物が増えて岡山の市街地に入ります。高島を過ぎ内田百閒の名前の由来になった旭川放水路である百間川を新しいコンクリート橋で超えます。

さあ、ここからです。

在来線は新幹線と少し離れた南側を進みます。西川原を過ぎて旭川を渡ると南側に岡山の中心地が見えてきます。表町にあるシンフォニーホールが目印です。その中心市街地を眺めながら列車は左に、つまり南へ向かってゆっくりと90度近くカーブしていきます。

車窓右手を見ると先ほど百間川で別れた新幹線が、より大きな半径でカーブしながら近づき、そして在来線を超えていきます。それはまるでボートレースでいう「まくり差し」のような軌跡です。

この「まくり差し」される時点で右側を見ると津山線が寄ってきています。いや「寄ってきている」というより、向こうは直線であり、こちらがかなりのカーブをしているので、二つの大幹線が非電化単線の津山線に寄っているという構図になります。三線が並走してしばらくすると津山線の車両基地で国鉄型ディーゼル車が多数見えます。

この時点で私は半分パニックになります。市街地、カーブ、まくり差し、津山線、車両基地、見るべきもの味わうべきものが一度にやってき過ぎて脳と目と体がついていかなくなります。

しかしそれは嫌なことではなく、私の中にはアドレナリンが放出されていて恍惚状態になります。「鉄萌え」の状態がしばらく続きます。

南北と東西

「南北に出口があると思ったら実際は東西なので感覚が狂う」

大学の時岡山の友達が言っていました。岡山周辺の地域に住む子どもたちが、中学ぐらいになり休日に子供達だけで電車に乗って岡山市内に遊びにいく時感じることだと言います。

確かに山陽本線は岡山平野の中をまっすぐ東西に通っているのですが、この岡山駅の部分だけ二つの大カーブによって南北のルートになっているのです。

これは鉄道建設時に、岡山の市街地を避けながら街に近い部分に駅を設置したためだと推測します。岡山の市街地の東には旭川が流れ、さらにすぐ東に平野に浮かんだ島のような操山があります。

この操山の北と南、どちらのルートを経由して旭川を渡り市街地にアプローチするのか当時の人は考えたことでしょう。そして結果的に北側を通り大S時カーブで市街地の西端に接する場所に駅を設けることになりました。

大総脈であるS字の山陽線にその後津山線と吉備線と瀬戸大橋線が入り込み、さらに山陽新幹線もより大きなSを描いて参加した、それが現在の岡山駅の姿です。

見るべきものが多過ぎて半分パニックになった私が岡山駅へ到着します。高架下の山陽本線下りホームに到着で、六両編成の列車から乗客がはき出されます。活気があります。自家用車での移動が主な地域で鉄道輸送の役割を感じ嬉しくなります。

しばらくホームにいます。在来線東端のホームから西を眺めます。新しくなった特急やくもが見えます。四国へ向かう人たちが列車の入線を待っています。その向こうには津山線や吉備線のタラコ色のキハ47が見えます。時々EF210に牽引された貨物列車が通過していきます。

私は頭の中で色々なことを考えました。過去の記憶を反芻したり、ありえない妄想をしたり、未来のことを考えたり。

祖母と一緒にこの駅から宇高連絡船に向かった思い出。一人旅の途中、ここでずっと列車を眺めていたこと。岡山の友達が、一緒に飲んだ後「なは」に乗る私を見送ってくれたこと。過去数十年間のこの駅での思い出がランダムに浮かび上がってきます。

同時に私の妄想の中では、山陽電車は姫路から西に伸びこの駅とつながっているのでその配置と乗り換えの経路を妄想したり、吉備線がLRT化された未来を想像したりしています。

曲がりながら到着する岡山駅の魅力を書こうと思いましたが、あまりにも魅力的な要素が多過ぎて私の筆ではうまくまとめることができません。まだS字の半分しか到達していませんが、しばらく考えて残りの半分を書こうと思います。

関連記事: 曲がりながら萌える(後編)

 

投稿者: 大和イタチ

兵庫県在住。不惑を過ぎたおやじです。仕事、家庭、その他あらゆることに恵まれていると思いますが、いつも目の前にモヤモヤがかかり、心からの幸せを実感できません。書くことで心を整理し、分相応の幸福感を得るためにブログを始めました。